プロローグ

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 横浜の港湾を行き交う船の霧笛が、微かに聞こえてくる。  深夜にさしかかった頃、津賀明義は遠山厚をつれて、改装中であるイタリアン・レストランのドアを開けた。  「わざわざどうも」  不敵な笑みを浮かべながら出迎えたのは、この店を今後任せることになった羽下(はが)裕だ。  中には、彼が暴走族時代と地下格闘技の賭け試合で荒稼ぎをしていた頃からの仲間、蒲田正一、村山敏樹、阿川享もいる。  「例の件では、ご苦労だったな」  津賀がそう言って羽下を見る。  「かなり荒っぽくやっちゃったけど、いいんだよね?」 羽下は薄笑いを浮かべながら仲間達を振り返った。  「いいも何も、おまえら充分楽しんだんだろ?」  遠山が苦笑しながら言う。  「そりゃあそうだけど、危ない橋を渡ったのは確かだぜ?」  へヘッと残忍そうに口元を緩める蒲田。ぎらりと目つきを鋭くする村山。阿川はバタフライ・ナイフを持つ手元を見つめながら「ふん」と鼻を鳴らす。  「心配はいらない」津賀がそれぞれに視線を向けながら応えた。「おまえ達が始末した連中以外の芸能マスコミは、みなうちの子飼いみたいなものだ。跳ねっ返りを処理したことで更に口出しできなくなったさ」  彼は『つかさコーポレーション』という大手芸能事務所の専務だ。表の仕事の他に、目障りな者を黙らせる業務も担当している。その方法は、金、脅迫、暴力と様々だが、荒事を行う際に使うのが羽下達だった。  そして遠山は、つかさコーポレーションに所属するタレントで最も稼いでいる男だ。昔は男性アイドルだったが、今は人気ワイドショーのMCとして番組の顔となっている。芸能界の大物の一人として多いに幅を利かせていた。  それだけではない。売り出して間もないタレントやアイドルを、今後目をかけてやるからと巧みに欺し、政治家や企業家など使える有力者の夜のお供として斡旋している。さらに、違法薬物の売買にも関わり、何人かのタレントやそのファン達に幅広く流していた。
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