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 「カナダからのルート? そいつは確かなのか?」  横浜青龍会主要幹部の一人、(あら)武辰(たけとき)が目つきを鋭くした。  「ああ、そうだよ」ふふんとニヤけながら応える谷口。「間違いない。ウエイン・ローガン、っていう外交官が特権を使って持ち込んでいるんだ」  「それを、徳松のヤツが派手に売りまわってやがるんだな……」  苦々しい表情で吐き捨てるように言ったのは、浜熊組――表向きは東洋興行カンパニーと名乗っている――で違法薬物関連を一手に取り仕切っている幹部、野田洋平。  最近横浜を中心に『Eh(エイ)』と呼ばれる上物の麻薬が多く出まわっており、それを取り仕切っているのが徳松の組織だろう思われていた。ただ、どこからどう仕入れているのか不明で、競合しているこの2つの組織としては忸怩たる思いをしていたのだ。  「そういうことだけど、おそらくもう一人噛んでいる人間がいる」  そう言って意味ありげに2人を順番に見る谷口。  「誰だそれは?」  いったん荒と目配せをし合ってから、野田が鋭く質問した。  「具体的にはまだわからない。ただ、警察の上の方にいるヤツだ。あれだけ派手に流通させているのを、警察が掴んでいないはずはない。ローガンの外交特権があるとはいえ、何のアクションも示さないのはおかしいよ。圧力をかけているんだ」  「ちっ! 徳松のヤツ、ずいぶん狡賢(ずるがしこ)く立ちまわったもんだ。外交官や警察官僚を抱き込むとは……」  苦々しそうに言ってからグラスの紹興酒をあおる荒。  ここは彼が経営者となっている高級中華料理店だ。密談を行うときによく使う。  「俺達としては、徳松だけ排除してローガンとその警察の何者かはそっくりそのまま利用したいものだが……」  「そんなに都合よくいくのかい?」  野田の話に口を挟み、ビールをグビッと飲み干す谷口。  「いや」と首を振る野田。「とにかく一回潰す。徳松とローガンには消えてもらうさ。警察官僚の方は動き次第だ。できれば敵対したくないが面倒になりそうなら消す。そいつが誰なのか、突き止められるのか?」  「努力しよう。その代わり、情報料は高いぜ?」  得意げに笑いながら応える谷口。
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