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「あの倉庫らしいよ」
ティナが軽く指差しながら言った。
「ああ。湾港関係者がけっこう集まってるな。野次馬もいるみたいだ」
リュウが応える。2人並んで歩を進めた。近づいていく。
セオの元に、神代配下の情報源――警察関係者だろう――から事件の報が入ったのが早朝だった。徳松の組織とそれを快く思わない敵対勢力で争いがあり、多数の死者が出たらしい、という。
なので、リュウとティナが様子を見に来たのだ。
もちろん倉庫は立ち入り禁止になっている。警察官達が現場検証しているのを、多くの人々が覗き込むようにしていた。2人は更にその後方で、あちこちから聞こえる会話に耳を澄ます。
十人以上が死んでたらしいぜ――。
それも、惨殺って言っていいらしい。首が斬り裂かれたり内蔵が飛び出したり、尋常じゃない死に方してるってよ――。
暴力団? 半グレ? どこかのマフィア? なんかそういう連中の抗争じゃないか、って話だ――。
外国人らしい連中もいたそうだよ。警察も手が出せないようなヤツらじゃないかとも言われてる――。
……そんな内容に顔を顰めるリュウとティナ。
「情報は確からしいな。Ehっていう麻薬を巡る抗争か……」
溜息混じりにリュウが言う。そしてティナを振り返るが、姿はそこになかった。
「お、おい、ティナ、どこへ?」
辺りを見まわすと、彼女は倉庫街の片隅へ行き、壁に背を預けて座り込んでいる男性に声をかけていた。
「なにやってんだ、あいつ……」
苦笑しながら近づいて行くリュウ。
「ねえ、おじさん。この辺って物騒なこと多いの?」
ティナが訊くと、ホームレスらしい男性はまぶしそうに目を上げた。
若い女性がこんな所にいるのは珍しいのだろう。今のティナは薄いピンクのTシャツと穴のあいたデニムという何気ない恰好だが、胸から腰、ヒップへと流れるラインが陽の光を浴びて際立っている。
「なに、あんた刑事さん? ずいぶん可愛いけど」
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