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「嫌よ。絶対、嫌」
いくらなんだって。あたし、頭を振ったわ。
「頼む。ぼくとハニー、二人のためだよ。そうだ、それに、」
彼はずうっとテーブルに下げっぱなしだった頭を、勢いよく上げたの。
「ぼくらの天使のためにも。」
ふうっ、とあたしは溜め息をついちゃった。
「だって変態みたいだよ、恥ずかしいよお、おしっこだなんて。」
あたしの半泣き声に、彼は半分真剣そうで、半分悪戯っ子みたいな顔をした。
この顔に弱い。母性本能くすぐられるのかな。
「だって、ぼくのこの身体だよ。」
彼はぽんぽんと腕と足を叩いた。
「ハイスクールからずっとバスケットボールの花形だったし。どこからみても悪いとこ無し。視力2.0。100メートル10秒3。」
この国、いい国だよ、とっても好きだし。そりゃあ、探せば悪いトコもあるけど。
表向きは留学を口実にして、本当はこの国へ逃げてきた。色んなことがあったんだよ。些細なことも過酷なことも積み重なって、あっちとかこっちで頭ぶつけてゴッチンして。
まあ、いいや、食べて飲んで酔っ払って寝てれば忘れるから。
なんて、逃げ出した国にいた頃のようにしてたら、あっという間に身体壊しちゃった。だって、この国の人たち、甘い物も脂っこい物も食べる、食べる。朝から粉砂糖いっぱいのドーナッツだよ。
でもね、この国大好きな一番の理由。
彼と出会ったの、病院で。
清掃のアルバイトに来ていた彼と仲良くなって、病気して入院して落ち込んでいるあたしを励ましてくれたの。
九割方やさしく励ましてくれて、でも、あたしが人生甘えてダメになってたところは、しっかり叱ってくれて。
「頑張るんだぞ、ぼくがそばに付いてるから。」
頭を手でわしゃわしゃ撫でながら。
そうして、二人は恋に落ちたの。
もう一緒にいるしか考えられないって。
二人で頑張ってお金貯めて、エンジェルを授かったら、結婚しようって。
郊外に小さな家買って、あたしと彼と、それから結婚して生まれてくる可愛いい天使と暮らそうね、って。二人で夢見てた。
でも、この国嫌いなとこがある、とっても、ものすごく。
徴兵制。
男も女もだって。まあ、あたしはまだ完全に国籍取ってないから大丈夫そうだけど。
あたしたち二人とも、徴兵なんてホンのちょっと林間学校に行くみたいな積もりで考えてたの。
でもね、この素敵な国の、きっとアル中に決まってる間抜けな男が戦争するって言い出して。
困ったことに、その男がこの国で一番偉い男だったの。選挙で勝ったんだから仕方ないんだって。
「頼むよ。ぼくまで兄さんみたいに戦死したら。君だけじゃない、ぼくの母さんだってきっと悲しくて死んでしまう。」
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