天使のうなづき

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 数日後、うなづき様特集の図書だよりを提出しに職員室を訪れた僕に、杉原先生が言った。 「一組の学級委員について、担任の先生から相談があったの」 「はあ」 「凌一くん、やってみない?」 「僕が?」 「図書委員のお仕事、誰よりも真面目に丁寧に取り組んでくれているよね」 「僕は、本が好きですから」  杉原先生は、うんうんと頷く。 「どうかな、図書委員会で培った力を、違うところでも発揮してみない?」  学級委員なんて考えたこともなかった。でも、クラス皆から頼られて、そのことに胸を張って行動する、上尾さんのような人に憧れなかったわけではない。  僕にも、そんな素質があるのだろうか。挑戦してみてもいいだろうか。  そう問いかけるように、僕は自分の胸元に視線を落とした。 「……いえ」  顔を上げた僕は、杉原先生の目を真っ直ぐ見つめ返して答えた。 「僕は、このまま図書委員として頑張ります」  図書委員の仕事が好きだ。大好きな本と共に過ごせる時間が一番多い仕事だ。この楽しい時間を、安全な場所を、わざわざ手放す必要はない。そのことに気が付かず、安易な判断をしてしまうところだった。  僕の胸にぶら下がるうなづき様が、ゆっくり首を横に振ったのだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加