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背中にぴったりおでこをくっつけた。前はよく二人乗りをして遊びに出かけた。進学で地元を離れるから、こうやって後ろに乗ることもなくなっちゃうなぁ。昔を思い出して、回す腕に力が入る。スクールシャツに顔をうずめた。
「何?」
私がそんなことを考えているなんて微塵も思っていない駿は、変わらず前を見て自転車をこぐ。私は大きく息を吸う。
「汗くさい」
「文句あるの? 降りる?」
「降りない」
チェーンがカラカラ鳴っている。駿が中学、高校と乗り続けた自転車は、思い出がいっぱいある。
「ねぇ、好きって言ってよ」
「言わない」
汗ばむ息づかいを感じながら、顔を横に向けると田園風景が広がる。色付きはじめた稲が風に揺れている。
「塾の時間は大丈夫?」
「駿のおかげで間に合うよ」
「なら良かった」
なんでもない時間は、ありふれた会話で沈黙を埋める。塾まであと少し。もう少し。
「じゃあ、好きなのは認める?」
カラカラカラ。少しのだんまり。そして「……うん」と聞き逃してしまいそうな小さな返事。声だけで照れてるのが分かる。私は心が踊り出しそうになって、たまらず背中をバシバシ叩いた。
「痛いって」
「あ、ごめんごめん」
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