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チェックのプリーツスカートがめくれないように気を付けながら、ありがたく私は荷台をまたいだ。抱きついた背中は温かい。駿がペダルをこぐと、振動と一緒に体温が伝わる。私は落ちないようにくっついた。
見上げた高い空にはいわし雲が一面に広がっていて、もう秋なんだなぁと深く息を吸い込んだ。でも気温はまだ高く、夏服から冬服にかわる移行期間だけど半袖で十分だ。しがみついたスクールシャツは汗で少し湿っている。
「駿は下の名前で呼ばないの?」
「恥ずかしいから無理」
「寧々ちゃんって言ってみてよ」
「言わない」
緩やかな上り坂にさしかかった。私の提案を振り払うかのように立ちこぎをして、自転車は不安定に揺れる。仕方なく荷台をしっかりと握るけど、身体は前後に揺れて、明らかにこぐペースが落ちている。フラフラと路側帯をはみ出しては何度も白線を踏んだ。
「降りよっか?」
「大、丈、夫!」
必死に踏み込むペダルは、ゆっくりではあるけど確実に目的地へと向かっている。雲はゆっくりと流れて、ゆるやかな風が私たちを包み、夏の最後を走りきるかのようにつき進む。
坂を上り終わると駿はサドルに座った。息は荒く「きっつ」と口からこぼれた。
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