ペダルを踏み込む

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 うん、だって。かわいい! 大きな背中しか見えなくて、表情が分からないのが残念だ。どんな顔してるのか見たいのに。 「誰かいる」  塾には入らず、入口で誰かが待っている。二人乗りの私たちを見て、手を振ってくれた。 「友達だよ。約束してたから」  私がふふっと笑うと、キキーッとブレーキ音をたてて止まった。 「駿くんに連れてきてもらったんだ」 「うん、自転車パンクしてたから助かったよ」  スカートを気にしながら荷台から降りた。まっすぐ足をピンと伸ばして、駿は自転車を支えている。  「駿くん優しいね」と声をかけられて、駿はヘルメットの位置を直しながら「どうも」とこたえた。 「そうだ、今度うちで勉強しようよ」  私が誘うと彼女はぱっと笑顔になった。   「うん、行く行く!」 「駿のナポリタンおいしいから、作ってもらおう!」  ニヤニヤしながら駿をチラ見した。「え!?」とビックリしている様子がこれまたかわいい。 「え、駿くん料理できるの? すごい!」 「簡単なものしか作れないですけど」  褒められて照れている駿がかわいすぎる。溢れる感情が抑えきれずに笑みがこぼれた。 「駿、乗せてくれてありがと! じゃあね」  ご機嫌な私は胸元で小さく手を振った。「あぁ」と軽く返事をすると、駿は片足をペダルに乗せた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加