ペダルを踏み込む

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「ね、寧々さん、じゃあまた」  こっちを見ることもなく、駿は右足を踏み込んだ。忙しなく去る後ろ姿を確認したあと、私たちは顔を見合わせた。 「え、今、『寧々さん』って言った?」 「うん! 言ってた!」  感極まってお互いの手を胸元で握りあった。頑なに名前で呼ぶことを拒んでいたのに、勇気を出して言ったのかなと思うと、身も心も飛び跳ねてしまいそうになる。 「いや、待って。もしかしたら『姉さん』って言ったのかも……」  私の手を握ったまま、急に現実に引き戻された表情になった。   「……なんで!?」  思わずつっこみたくなる。 「私じゃなくて、(もえ)に言ってたかもしれないじゃん」  さっきの笑顔はどこ行った。私は大きくため息をついた。 「駿が勇気を出して名前を呼んでくれたんだから、素直に喜びなさいよ」 「でも勘違いだったら恥ずかしいし」 「絶対寧々のことだってば!」  肩を叩いて寧々に言い聞かせた。当の本人は私の言葉がいまいち信じられないようだ。  お互いの気持ちを私は知っているけど、こんな感じで駿はシャイだし、寧々は天然だし。私は駿の姉として、そして寧々の友達として、二人の恋を育てていきたい、と思っている。  あーもう、二人とも早く付き合っちゃいなよ!
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