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「行くよ!」
…行く…?
…行くったって、どこに?
男の胸は真っ赤に染まっていた。
赤黒い色調が、少しずつ布に染み渡っていく。
しおりは俺の手を引っ張り、走り出した。
俺は茫然としたままだった。
目の前で起きたことを整理できないまま、浮き足立つ足をうまく支えられない。
走る——
まるで嘘みたいな出来事だった。
風が流れるような速さで、目の前の景色が揺れた。
息つく間もなかった。
急いで家を飛び出して、緩い坂道を下った。
空は赤かった。
薄長い線を引くひつじ雲が、町の向こう側へと伸びていた。
心臓の鼓動が高まっていく。
揺れる視界の先で、長閑な町の風景が通り過ぎていく。
俺はただ、しおりに引っ張られるがままだった。
掴まれた手を伸ばしたまま、もつれそうになる足を動かしていた。
空は少しずつ翳っていった。
チチチと囀る鳥の声が、どこからか聴こえていた。
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