1.序章

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1.序章

生きている人間の方が恐い。幽霊よりもエイリアンよりも、レクター博士よりも現実社会の人間は恐い。 人は簡単に他人の魂を傷つけたり、抹殺したりする。 私には20歳年下の友だちがいる。コールセンターで派遣社員をしていた頃の知り合った。親しく話をするようになって、彼女、名前をまいちゃんという。まいちゃんは映画好きだということがわかった。話は盛り上がり、じゃあ今度一緒に映画でも見に行こうかということになり、今では映画友だちである。 (こう見えても人見知りが激しい私は出会って1年以上経ってから誘うことができた) 好きな映画のジャンルはホラー映画や怪談物だという。 私が、「 “羊たちの沈黙”は怖かったわあ。」と言うと、 「あれはミステリー!」とあきれられた。 (なぜレクター博士はクラリスだけは危害を加えなかったのかなどと考察をするのも楽しかった。) そうなのだ。私はホラー映画が苦手なのだ。なので名作名高い、 “十三日の金曜日”も“オーメン”もちらっとしかテレビで見たことがない。 “エクソシスト”も途中で止めてしまった。 それでもまいちゃんは死後の世界や幽霊の存在を信じていないという。 「だって。」 まいちゃんは一呼吸おいて言った。 「生きている人間の方が恐いじゃない。」 このセリフはテレビでとある霊能力者も言っていた。名言である。 今、私のいる職場はまさに『生きている人間の方が恐い』所である。 コールセンターであれば、60歳過ぎても、何とか仕事にはありつけるだろう。私の年齢はあと数年で60歳に到達する。しかし私はコールセンターはもう懲り懲りだった。 一日中、架台に坐って、かかってくる電話を待っているのが耐えられなくなった。 まるで養鶏場の鶏になった気分である。 夕方になると決まって声が出なくなる。喉が弱いのではなく、発声を正しくしてないからだと推測する。自分の声にも自信がない。 しかしながら、コールセンターのオペレーターの名誉のために言っておきたい。 すごい人はすごいのだ。まるでアイドルのような可愛らしい声でよどみなくスラスラと自分のペースで相手と話すことができたり、優秀すぎて2ヵ月更新を遙かに越えて3年以上働いているうっとりするような若くてハンサムな人もいた。 まいちゃんとこっそり、この若くてカッコいい男性のことを噂した。 「〇〇さんだったらこんなとこじゃなくて、もっといいとこ就職できるんじゃない?正社員で。」 と言い合った。 伝え聞くところによると・・・。 本人はこう言っていたという。定時で帰れるところが気に入っている。前職は長時間労働で過労寸前だったんだ。今はほとんど残業なし。あってもちゃんと残業代がもらえる。終電がなくなってタクシーで帰ることもない。 なるほどね。非正規雇用であっても絶対結婚できるタイプであった。 私も制度についてはあまり詳しくないが、派遣社員の正社員にならないかという話もあったそうである。賞与も出るらしい。これになったらいろんな事業所に行かないといけないからいやなんだよねーと言っていたらしい。 「ここってさ、何だかんだと言っても交通の便がいいじゃん。建物は古くてトイレは汚いけどさ。」同感。戦前から某NTT(昔は電電公社といった)があった場所である。幽霊も出る。市内の一等地にある。 アイドル声の女性も、イケメンの若い男性も近くでやり取りを聞いていると名人芸を見ているよだった。声優になれるような美しい声をしていた。 絶対この2人のようになれないと私は思った。 長年やっていた事務職に戻りたかった。 派遣会社を通じて、とある建設会社で半年働いた。本当は一年の約束であったが短くなった。育休に入っていた人が急遽、職場復帰したいと申し出たからだった。 残念だったが、久々に事務職をやって自信は取り戻すことができた。もっとも仕事を教えてくれた人がとても優しい人だったことが大きい。電子帳簿保存法なんて全然知らなかったことも教えてくれた。ブランクがあると、社会と会社はどんどん進んでいるのだった。 今の職場に受かった時、私はとても嬉しかった。コールセンターのオペレーターも事務職も2ヵ月更新だったが、今度はハローワークを通じて就活し、一年更新の非常勤職員である。もしかしたら、二年目・三年目もあるかもしれない。 半年以上はじっくりと腰を落ち着けて仕事ができる。 年も年だ。 新しい職場の面接をしてくれた人もすごく感じが良かった。時給もまあまあいい。 役所関係なので変な人はいないだろうと思い込んでいた。 しかし、現実は甘かった。 役所関係の職員の人の名誉のために言っておきたい。そう、ほとんどの部署はまともでいい人ばかりである。 ただ私の配属された部署に人の不幸を食べていきるゲドウがいたのだった。 そしてゲドウは周りの人をマインドコントロールしていたのだ。
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