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3.台風の前日
読者はまだ一人(泣)
しかし読んでくれた人のために続けます。
鍋島は仕事中は口を開けば人の悪口を言っている。関連する会社の担当者、他の部署の人、はたまた政治家や公人たちの悪口。そして聞こえるように、
「非常勤のくせに待遇がいいのはおかしい。」
私ともう一人の非常勤さん田中さんへのあてこすりを言う。
有給の夏休みがあったり、交通災害時があれば休みになる。しかも給料がもらえる。これは最近のことで、正規の職員ばかり待遇がいいのはいかんよね、という方針で決まったらしい。税務署のアルバイトでもボーナスが出ると聞いたことがある。おすすめしない職場であるが。
とある夏の日、翌日は台風がくるということで、鍋島ともう一人の蛇川という男は早々にリモートワークの申請をしていた。
非常勤の田中さんは自宅はインターネトの環境が整っていなかったので、出来ないということで、使っているバスが動けば出勤するということだった。私もリモートワークなんかしたくなかった。自宅にパソコンなんか持って帰りたくなかった。自転車で通勤しているので。
私も雨が降ろうと、代替えのバスで来るか、歩いてでも出勤すると言った。
まだ有給がない頃であった。
この時である。鍋島が、
「非常勤にも特別休暇があるのはおかしい!」と言い放ったのだった。蛇川というこれまた性格の悪い正規職員が横でせせら笑っている。
私はどちみち出勤するつもりだったので、無視をした。
しかし、である。結局大型台風が直撃するという情報がどんどんインターネットで配信され、田中さんの使っているバスが運休することになった。それから数時間の間に県内のほとんどすべての交通機関が運休すると決定した。JRも止まることになった。
それによって自転車通勤である私も特別休暇がもらえることになったのだ。
まぬけだったのは鍋島と蛇川である。何もしなければ純粋な休暇になったというのに、リモートワークの申請をしたので、自宅で仕事をしなければならなくなったのだった。ザマアであった。
次の日、私と田中さんは自宅で悠々と休暇を楽しむことが出来た。田中さんは趣味のコーヒーに音楽、私はぼーっとすることが出来た。
それが悔しかったのか、鍋島のいじめはますます、拍車がかかっていったのは、その頃はまだ二人とも知る由もなかった。
人の悪口ばかりで気がひけるので、自分の見た映画の話をしたい。
『ゲゲゲの鬼太郎 新生版』を見に行った。他の映画を見に行った時、予告版を見て、気になっていたのだった。某映画館でリバイバル上映してくれるということで、映画仲間のまいちゃんといさんで見に行った。
「まさか目玉おやじに異性として気になるようになるとは思わなかったわ。」などと感想を言い合った。そうなのだ、これは鬼太郎のお父さんの目玉おやじが若き日の映画なのだった。
もう一人の主人公、水木もとてもよかった。
東映が配信だったのには思い入れがある。私が幼い頃、『東映まんがまつり』というのを夏休みの間にやってくれたのだ。テレビで人気のあるアニメの一話分を二つ三つやってくれる後にオリジナルの映画もあった。私が見たのは『人魚姫』であった。ディズニーのようにハッピーエンドなんかじゃない、悲恋のまま終わる。海の泡となった人魚姫の画面を見て、私は泣いてしまった。
『ゲゲゲの鬼太郎 新生版』は東映らしい作り方で嬉しくなってしまった。昭和の香りを十分残しておいてくれて良かったのだった。
東映といえばヤクザ映画というイメージがあるが、なかなかどうして、硬派の映画も名作はある。日露戦争を描いた『二百三高地』を母親に連れて見に行ったことがあった。
多くの兵士を亡くし、泣き崩れる乃木大将を明治天皇は慰めるシーンで大泣きしてしまった。昭憲皇后も泣いておられた。ちなみに雅子皇后陛下の曾祖父は高名な海軍大将であった。
よく勝ったなあ、あの戦争に。今ならそう思う。兵士に食糧を支給するシーンがあった。米だ、米だと喜んでいる兵士が唖然とした。そのごはんは人の血が染まっていたのだ。衝撃的なシーンがあった。
『ゲゲゲの鬼太郎 新生版』の水木も兵士として戦争に行っている。そこで経験したことで水木は影のある人間になってしまった。その影の部分が男性として魅力を増している。いい男は得である。
ゲゲ郎とお酒を酌み交わすシーンはゾクゾクするほど良かった。
こういった先人たちの苦労をわかっとるんかいなと思う。弱い立場の人間をいじめるってどういう神経をしているのだろうか。
こういう輩はいざ日本が他国に攻め入られた時に、簡単に日本を裏切るのではなかろうか。
あえて言う、こんな奴らは日本人ではない。
血統のことを言っているのではない、日本人としての心がないのだ。
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