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4.AIを否定した男
企業などの職場でパソコンが本格的に導入されて、かれこれ30年以上経つ。私が20代のころはウィンドウズ95だった。その前はワープロやランプランというものもあった。
ExcelやWord、はたまたPowerpointなどはほぼ独学で習ってきた。使わざるを得なかったからだ。
今度はAIである。なんじゃそりゃということで、社内メールでどこどこに手順書を格納しているから、おのおの勉強してね、と送信されてきたので、暇だった私は少しばかりかじっていた。
勉強中なのではっきりとしたことは言えないけれども、機能としては、長々とした論文などの文章をわかりやすくまとめてくれるということだった。
早速、インターネットで仕事に関係のある記事をを見つけて、それらをコピペして、生成AIとかというソフトのチャットなんちゃらというところに貼り付け、要約100文字というのを加えると、みるみる要約文章が現れた。
英文の文章を和訳もしてみた。グーグルでもできるじゃんと思ったが。へえ~と思ったものの、それだけであった。
手順書には自動的にQ&Aを作ってくれるとか、業務の手順書を作ってくれるとか書いてあったが、いまいちよくわからない。
注目したのはもともとの文章が駄文であればわけがわからなくなるよ~と手順書には書いてあったことである。
かつて勤めていた会社のシステムエンジニアさんが言っていた。
「パソコンを自由自在にこなすには、使っている本人もそれなりに賢くないといけないんだよね。」
数十年前のセリフであるが、AIの時代になっても変わらないな~と私は思った。
ここでゲドウこと鍋島が出てくる。
私は田中さんと一緒に午前中、業務に関連する記事をインターネットから集めるという仕事をしている。守秘義務があるので、詳しいことは書けないけれども、エネルギー関係だということを明記しておきたい。
例えば昨今の物価上昇の要因として輸入品目が高騰しているため、ということがある。それに関連する記事をインターネットから集めるのだ。
いろんなサイトにアクセスして記事のタイトルとURLを張り付けて、関連部署に共有するためにメールするという仕事だ。
関連部門に送信する前に鍋島のチェックを受ける。
このチェックがいやららしいのだ。
田中さんがピックアップした記事を丸ごと削除したり、自分で探し出した記事を付けくわえたりする。
はっきり言って田中さんは頭が良い。切れ者である。事務員を長年やってきた私にはわかる。数字に強いし、論理的な思考もできる。
田中さんに失礼じゃないかといつも憤りを感じた。
ある時、田中さんは朝からどんよりしていた。
「記事の要約をつけるようにって、鍋島さんが言ったのよ。」
それって蛇足じゃないですか、と私は声を潜めて叫んだ。
例えばである。最近話題の兵庫県知事選を取り上げたい。
1.読売新聞
「心からおわび」知事県民向け行事で…再選後初
URL〇〇〇〇〇
記事の内容を要約を付け加えろということであった。
インターネットから仕事に関係ある記事を検索するのも一時間はかかっている。記事をいちいち要約するとさらに時間がかかるだろう。
それに一流の記者たちが作っている文章であり、タイトルである。タイトルを読めば何を書き、何を主張しているかすぐわかるはずである。
私は田中さんにささやいた。「田中さん、AIを使いましょう。」
田中さんは忙しくて、生成AIのソフトがパソコンにアップされているのにも気づいていなかった。暇な時にやってみたんですよ~と私は田中さんにささやいた。田中さんは最初は良く理解をしていなかったが、私の説明を聞くと、使う!使う!と言ってくれた。元気を取り戻してくれた。
我々は周りに気づかれないように記事をAIによって要約させた。
1.読売新聞
「心からおわび」知事県民向け行事で…再選後初
URL〇〇〇〇〇
※斎藤知事は再選後初めての公式行事であらためて謝罪した
という感じである。タイトルそのまんまであるが、それでも鍋島はつけろと言ったのだった。
我々はサクサクと要約を付け加えて、鍋島にメール送信した。いつもと同じ一時間しかかかっていない。いちいち真面目に自力でやればいつもの30分から一時間余計に時間がかかっていたはずである。
それが悔しかったのかもしれない。鍋島のチェックは要約を自分で変更したのだ。
つまりAIが要約してくれた記事を、自力で変更してことになる。AIを否定したのだった。本人は気づいていないが。
田中さんと(笑)をがまんするのが大変だった。
その後も要約文をもっと長くしろだの、短くしろだのいろいろケチをつけられたが、しまいには要約そのものをバッサリ切られるようになったので、それから要約を付け加えることを田中さんとやめたのだ。
それについてはなにも文句は言われなかった。
AIを使って要約文を作成したことは、二人だけの秘密である。こんなことでもケチをつけられる材料になる職場なのだ。
たぶんこう注意されるだろう。「非常勤のくせにAIを使って横着をした。」
信じられないかもしれないが、こうした叱り方をするところなのだ。しかもAIは電力がすごくかかる代物である。ペーパーレス!ペーパーレス!と叫んでいた鍋島は経費が掛かることに対してガンガンせめてくるだろう。
ただしAIは電力を大量に消費するってこと、知らないと思う。
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