まるい庭のなかで

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──「天使はヒトのかたち」なんて、誰が決めたのだろうか。綺麗な翼を貰って人々のもとに舞い降りて、天啓を告げるのがヒトだけの役割なんて誰が決めたのだろうか。 それは固定観念、凝り固まった昔のひとの考え。綺麗な翼を貰える権利が、人々を救える権利があるのがヒトのかたちをした存在だけだなんて、なんて傲慢なんだろうか!見目麗しい天使たちに一矢報いるために、われわれは立ち上がった。 これに、作戦名などは無い。 結果がどうなるか見当がつかない。 ただ、己の譲れないプライドに従って動くのみ。 ここに居るのはその信念のもとに集まった同志だ。 「今日のリストはこれだな、……」 ぼくは丸めた紙の束を机に放り出し、一枚いちまいを仲間たちに仕分けていった。彼らは「え〜」「あ、このひと知ってる!」「おれも」などおのおの自由な反応を見せながら、対象の見た目と記された住所を記憶していく。 「ってかリーダー、やっと口癖が抜けたんだ」 「……っ!?」 「いっつも語尾から抜けないのが良かったのにな〜」 仲間のひとり、飄々とした少年が食えない笑みを口調に含めながら近づいてくる。背後から歩み寄る気配を感じ取れなかったぼくは文字通り飛び上がった。 こいつが足音を立てないのは普段からといえども、出来たらやめてほしいものだ。寿命が縮む。寿命という概念はそもそもないが。口癖に関しては、一切の返事を拒んだ。 「じゃあ、今日も頑張るぞ」 「はい!」 「お〜」 「んじゃ、やりますか」 十人十色の掛け声。相変わらず自由だ。そして緩い。 ぼくも程なくして、担当する人のところに向かった。 「今日もいいこと、なんにもなかったなあ」 「怒られるのも、嫌われるのも、もう嫌だ」 「消えてしまいたい、どこかに行きたい」 ぼくが担当するのは、柔和な雰囲気のおとなしい女の子。歳は高校生くらいだろうか。いたく疲れてしまってる。疲れた理由は学校、家、友達、それとも。 「……はあ」 ぼくは人知れず、ため息を吐いた。 当たるはずのない予想を挙げていったところでどうしようもないのだけれど、『ひととなりを知って理解したいと思うくらいはいいんじゃないか』とも思う。事務的であればあるほど、ぼくらの理想からは離れていくのだから。 見た目ですべてを推し量るのは、天界のやつらと同じだ。 「ねえ、きみ」 ぼくは彼女の背後から声をかけた。少し前の自分を思い起こさせるように彼女の肩が大きく跳ねる。気配を消していたといっても驚かせるつもりはなかったので、ほんのすこしヘコんだことはぼくの胸のうちに収めておいた。 おずおずと振り向いた彼女は、ぼくの姿を見てやさしげな瞳をまん丸く見開く。
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