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これは僕が小さかった頃の話…… でもないか....
ーーーだって僕は、7歳
まだ、畑仕事だってしなくてもいいし、この時期は"神の子"として可愛がられている。
ーーーまあ、こんな話はどうでもいいな....
話を戻すと、僕の住む村の近くの山には神が住んでいた。
だから、無礼を働かないよう山には絶対に入っていけないと固く禁じられていた。
………が、僕がなにを考えたのかその山に入ってしまった。
たった2年前のはずなのに、その理由が今でも全く思い出すことができない。
でも、これだけは覚えている。
硬く、しなやかな緑のウロコを持った大きな蛇が僕の姉を”食べたことを”ーーーー
『 〜〜 生の日 〜〜』
なぜこんな話を持ち出したかというと、今日僕が死ぬかもしれないからだ。
この村では、山の神にお怒りを与えないために生贄として7歳未満の小さくて若い女を毎月神の供物とされてきた。
なぜ、このような事をしているのかいうと7歳未満の子供は"神の子"だから死んでもいいという、なんとも身勝手で不謹慎な理由だった。
当然だが、数年もしない内に村から幼い女の子がいなくなってしまった。
僕にも六人も姉が居たらしいのだが、みんな神に捧げられた .......
普通に考えて、村から女の子がいなくなっただけでも村は存続が難しくなるというのに儀式は続けられた
今まで、儀式の対象は7歳未満の女の子だけだったが、そこに7歳未満の男まで追加された。
つまり、僕も儀式の対象内となってしまった。
急な儀式の変革により抗議した子供もいたが、複数人の大人たちがその子供を袋叩きにし、次の日には神の供物となり死んだと宣告された。
『 これは、神のためなんだ!』と耳ざわりのいい言葉を添えて....
ーーーでも、この言葉を口にするのは男だけではなかった。ここで過ごす女性や老人までもが僕たち子供がまず先に捧げられるべきだと口にした。
大人にとって、子供は消耗品であり、蓄蓄であり......生きるための"道具"に過ぎないと実感した。
つまり僕たち子供は蛇に食われ、神の子として生を全うするしかないということだ……
ーーーが、この事実を知っているのは僕だけだった
村にいる子供(男子)は大人たちの暴力に屈し、神の捧げ物になれるんだと狂信するようになり生きることを諦めていた.....
だから、僕は大人たちに媚びを売った。
その行為が、どれだけ惨めでも...見苦しくても……媚びる相手が大人だったとしても....
”生きたかった”
ーーー僕は誰よりも先に畑仕事を手伝った。7歳の子供は畑仕事をしなくてもよかったのだが、どの子供よりも残す価値があり、役に立つということをアピールしたかった。
その甲斐あって、僕が生贄に選ばれることはなかった。そして、その代わりなのか他の子供たちが神に食べられる"餌"となっていった。
しかし、状況が変わったわけではなく儀式は行われ続けた。
次には自分が供物に選ばれるかもしれないという恐怖が混ざり、この状況を逃れるには誰よりも働き成果を見せるだけだと思うようになっていた。
普段だれとも合わないようにしていたから他の子供の名前も顔も忘れ、特別悲しいという感情はなかった。
ただ、同い年ぐらいの子供がいなくなっているなあと、あまりために意識しないようにしていた。
そして、とうとう僕以外の子供がいなくなってしまった。
ーーーでも、この時の僕は自信があったから怖くはなかった。
自分で言うのもなんだが僕は子供の体でありながら、どの大人たちより頑張っていたと思う。
太陽が昇るよりも先に畑仕事をはじめた。肉体が仕上がった成人男性が扱う重い桑を太陽に肌を焼かれながら、手にできた血豆を潰し激痛に堪え、振るって...…振るって....振り続けた。
命がかかっていた以上楽しいという思いも喜びもあるわけもなく、ただつらく… 苦しいだけの重労働だった。
でも、結果として他の大人たちより倍以上の作物を納めることもできた。
だから、この苦労と努力が認められ、”生きていてもいい”と言ってもらえると思っていたからだ。
.......でも、僕の功績は誰も認めてくれなかった。
なんの躊躇いもなしに、神の供物にすると開口一番にそう宣言された。
僕の体から血の気が引いた。
努力を認められず絶望した...そういうのもあったかもしれないが、一番の理由は大人たちの視線だった。
必死に働いていた時も、僕に多くの大人たちが優しい言葉と温かい眼差しを向けられていた。
だから、自然と自信が湧き生き残れると思っていた、そのはずだった....だが、
ーーーその時の眼を”今”向けている
大人たちから見た僕は、ただ"動くだけの桑"であり、”道具"であることには変わらなかった。
僕の2年間は大人たちのためにただ従順に従い、使い潰されただけで無駄に....
”本当に無駄に"生きただけだった……
嫌がる素振りを見せれば、大人たちはまた暴力でものを言わせてくる。
だから、僕は神に体を捧げることを余儀なくされた。
儀式は本格的に始まった。
星が煌々と輝く素晴らしい空の下、
ーーー僕は酒樽の中で溺れていた。
樽の中は狭く、窮屈で息ができない。肺に空気を入れようと呼吸しても、口に酒が入り込んでのどを焼くだけだった。
呼吸できない焦りと焼けたのどの痛みで自身の首に爪を掻き立てても状況が変わらない。
新たな苦痛が体中へ駆け巡り、より死に近づいているだけだった。
たかが数秒.....長い人生においてその一瞬の数秒が、今すごく"憎かった"
あれだけ欲しいと思っていたはずの”時間”が今すぐにでも終わって欲しい”耐え難い激痛”へと姿を変えた。
僕がここで、もがき苦しんでいる間も大人は今もこの一瞬を生きている。
ーーー痛みも感じず、ただ”生きている”
同じ人として産まれたはずなのにどうして.......
”どうしてここまで、人を食い物にできるのか”
そして、僕の意識は途絶えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕は暗い世界にいた。
あの世がどういう所なのか、自分でも考えたことがある。
まさに今の現状そのものだ
暗く、冷たく、何もないーーー
見えていた物が視認できなくなり、触れていた物が触れられなくなる
でも、世界自体が変わったわけではなく
ただ、自分が持つ全ての感覚が消失し、意識だけが死んだ場所から一歩も動かず留まる。
ーーーそれが、僕の考えだ
つまり、ここで”永遠”という時の中、全ての感覚が遮断された闇の中で生きるのだろう....
でも、なんだろう……
お腹の部分が何故か"温かい”.......
全ての感覚が無くなっているからを温もりを感じたりすることもないはずなのに.....
それに気づいていなかったが、かすかに風の音が聞こえる。
「 耳が....聴こえる……」
ーーーー僕は、まだこの世で生きている....のか.....
酒樽の中で溺れて死なず、神(大蛇)にも食われず、生き残れることなんてことがあるのか....
ーーー僕は目を開き、体を起こした。
本当に生きているようだった....
"本当に生きているようだった"
「……ありがとう……ありがとうございます」
僕は自身の体を抱きしめ、不意にこの言葉が溢れていた。
目の前に感謝すべき相手がいるわけでもないのに言葉か止まらなかった。
………そんなの決まってる
「生きてて…よかった……」
ーーーこの言葉に尽きる、そう思えた。
「!!-----ッ」
唐突に、石で殴られたような酷い頭痛に襲そわれた。
大量に酒を飲むと頭が割れるように痛むとは言われていたが、まさかここまで痛いとは
皮肉にも生きているということを改めて再認識させられた。
「それにしてもここはどこだ....」
夜だからなのか、周りがよく見えなかったが、目を凝らし見渡してみると洞窟の様な場所だということが分かった。
しかし、床がじめじめして湿っぽいのと、ほぼ外のような場所で寒かったから移動することにした。
痛い頭を抑え付けて、風が通らない洞窟の奥へと足を運んだ。
視界がぼやけ、足元もふら付いていたがどうにか立たせて、ゆっくり....ゆっくりと歩いた。
そして奥までたどり着くと、大きな白い岩が目に入った。
僕のへそぐらいの大きさも、表面がつるつるした珍しい形をした岩だった。
それを触ろうとした、瞬間だった。
「ーー触れるな、喰らうぞ」
後ろから人の声が聞こえた。
気配に全く気付かず、反射的に後ろを振り返った。
暗くてよく見えなかったが、おそらく女性の人がいた。
でも、もしここが例の山なのであれば、ここにいる人なんて決まってる。
「ーーよかった!生きている子供がいたんだ!あなたの名前は?何年ここで生きている?」
僕は、嬉しさのあまり変なタイミングで変なことを聞いてしまった。
でも、僕は仲間と言える存在が生きていたことに嬉しさを隠すことができなかった。
「子供?悪いが、お前が思う人などーーー」
「ーーーあなたですよ!僕のように神の供物にされても生き残ったあなたです!」
僕を助けてくれたのも、おそらくこの人なのだろう。
あの狭い樽から救い出し、この洞窟まで運んでくれたこの人にお礼を言いたかった。
「ーーー供物?神?何を言っている?とりあえず、卵から離れろ!!」
「ーーーああ、すみません」
気持ちが昂って現状を忘れていたが、相手からしてみれば、死にかけていた謎の存在。
僕は少し冷静になり、岩だと思っていた卵から距離を置いた。
「それにしても変わった卵ですね。なんの卵なんですか?」
ふと思ったことを聞いてみた。
鳥の卵にしてはこんな大きい卵を見たことがなかった....それにこの卵、鳥のものにしては自重で少し歪み、楕円というには”歪”な形だった…
まるで......
「 ”それは私の卵だ” 」
「.....は?」
「ーーーそれと私は人間ではなく”蛇”だ」
なにを言っているんだ....暗くてしっかりとは見えないが、目の前の女性と蛇を見間違えるほど分からないというほどでもない。
それに姿だけではない、声や今も発している言葉だって蛇にできる芸当ではない。
「じょ....冗談言わないでくれませんか?」
”蛇”という言葉が、僕の心をざわつかせる。
あの日.....僕の人生を大きく変えた”緑の大蛇”の姿が頭の中をちらつかせた。
「ーーー冗談?はあ....本当に話が進まないなあ....先にこっちの姿を見せるべきか....」
そういうと女性らしき影がみるみると大きくなり、僕の体を覆った。
「ーーー人間は体温が見れないから暗くて分かりかもしれないがもう一度言おう、私は”蛇”だ」
彼女は村で”神”と祀られ、姉や多くの子供を食い殺した”大蛇”となった。
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どうも、この作品の作者です。書くのが遅く、大変申し訳ございません。まだ書き終わっていないのですが、まだ続きを書く予定はあります。11月11日までに書き終えるので、もし興味を持っていただけたら、また読みに来てください。
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