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「捨三、お前は本物の神を描け!」
了庵は、もう立ち上がることさえできず、目も見えず、水さえも飲めなくなった死の床で、捨三に最後の力を振り絞って言った。
捨三は、そんな了庵に向かって泣くことしか出来なかった。
「先生、、了庵先生、、」
「捨三! お前には、神が与えた特別な力がある、、。それは、きっと、本物の神がお前だけに、そのお姿を描かせて下さろうとしているからだ、、。捨三、お前は、どんなことがあろうと、生きて、世のために、苦しんでいる人のために、本物の神を描くのだ!」
了庵は、そう言うと、血を吐いた。
「了庵先生!」
捨三は、了庵を抱き締めたかった。
しかし、出来なかった。
なぜなら、捨三には、手が無かったからだ。
捨三には、生まれつき両手が無かった。
しかし、捨三は、絵を描く。
人のように、手ではなく、口で筆を取り、頭を振り描くのだ。
絵を描くこと、、。
それは、捨三にとって、たった一つの生きる希望であり、生きる目的であった。
だが今、捨三は、たった一人の味方である了庵を亡くそうとしていた。
捨三にとって、師を失くすことは、もう希望が無いも等しかった。
「神を描くのだ! 捨三、、」
そう言い残して、了庵は死んだ。
捨三には、重すぎる遺言だった。
そして、この時の捨三には、これから自分が歩む道を知る由もなかった、、。
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