神を描いた少年

2/2
前へ
/2ページ
次へ
「こんな疫病神を産ませやがって! 神も仏もありゃしねえ!」 捨三の父親は、よくそう言って両手のない捨三を罵った。 捨三の母親は、子供を八人、産んだ。 八番目の捨三を産んで、その両手がないことに驚き、産後の肥立が良くなかった。 そして、まもなく死んだ。 捨三の実家は、貧しい農家だった。 捨三の兄弟は、みな農業の手伝いをしていた。 捨三は、その兄弟からもいじめられて育った。 捨三は、七つになったが、学校なんて行かせてもらえなかった。 自分の食い扶持ぐらいは働け、と両手のない捨三でもできる薪運びをさせられた。 背中に山のような薪を背負わされ、家まで持って戻る、、。 それが、捨三の生活の全てだった。 捨三は自分の名前すら書けなかった。 そんなある日。 捨三は、薪を背負って山を降り、一休みのために一本の松の木の下に来た。 そして、ふと、そばに落ちていた松の小枝を、口で拾った。 そして、深い意味もなく、家までの道中に祀られているお地蔵さまを、口で咥えた小枝で描いてみた。 最初はおぼつかなかった線も、次第にくっきりとしたものになった。 「坊主! 面白いものを描いておるな」 そう笑い声がして、振り向くと、ボロボロの袈裟を来たお坊さんが立っていた。 それが、了庵との出会いだった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加