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2局目【少女との生活は唐突に?!】
少女──東風谷北子との共同生活は、突然始まった。
『──と言うわけで、これから北子ちゃんのお世話をよろしくお願いいたします』
『──はい?』
俺がそう告げられたのは、数週間前。俺にとって憧れであり、同時に麻雀の師でもあった壮年──北子の父親の葬式会場だった。
念のために言っておくと、俺と東風谷さんは親戚でもなんでもない。師弟関係、ただそれだけだ。
それなのに俺は、東風谷さんの一人娘である北子の保護者となってしまった。
東風谷さんの奥さんは、数年前に他界。だがそれにしたって、どうして俺が? 東風谷さんの親戚に、理由を散々訊ねた。
だが、どれだけ訊いても答えはひとつ。
『それが彼の、最後の願いだから』
という話だ。人生とは不思議なものである。全くもって、笑えないが。
あれよあれよと準備やら手続きやらが進んでいき、気付けば俺は正式に東風谷さんの一人娘を引き取る形となった。無論、俺の理解なんて欠片も待たずに、だ。
だが、決まってしまったものは仕方がない。喜ぶべきか悲しむべきか、俺は東風谷さんのムチャブリには慣れている。なので俺は、割と早く腹をくくった。
そして迎えた、北子と初の対面。俺は小さな北子の前で膝を曲げ、可能な限り視線を合わせた。
『初めまして、東雲南雲だ。えっと、北子ちゃん?』
小学三年生の女の子となんて、関わった経験は無い。こちとら『見た目が厳つくて怖い』と評判だからな。言うまでも無く、悪い意味で。
だがしかし、北子は妙に落ち着いていた。それはもう、ビックリするほどに。
『初めまして、東風谷北子よ。それと、私のことは呼び捨てでいいわ』
東風谷さんは娘を溺愛しまくっていたから、この子の話は聞いていたが……。なんだか、イメージと違うな。
『北子は、いいのか? よく知りもしない相手と、一緒に暮らして』
『問題無いわ。だって、私はあなたを知っているもの。父がいつも、あなたの話をしていたから』
大人びていて、クールで、冷静。突然『知らない相手と共同生活!』なんて言われたら、普通はもっと狼狽えるだろうに。
『南雲さん。不束者だけれど、これから私をよろしくお願いするわね』
北子がペコリと頭を下げると、可愛らしいふたつ結びの髪が揺れた。その髪型が、北子を『少女だ』と語っているように見える。
どれだけ大人びて見えても、この子はまだ小さな子供だ。俺が、この子を立派に育てなくては。
『俺も、呼び捨てでいいぞ。敬称は、要らない』
『そう』
結婚はおろか彼女がいたこともない、頼りなさすぎる二十七歳。そんな俺だが、今日から子育てがスタートだ。そう意気込み、俺は顔を上げた北子に笑みを向けた。
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