追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

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 ただ、ユリウスの姉は、たまに不思議そうに「同じ夢を繰り返し見る」とぼやくようになった。白い長い髪の女性が、両手を握って「この1ヶ月で8年分だった」「今日だけで1年だ」と、数字は覚えていないが、とにかく年数を告げるのだという。ユリウスの家は、不思議な夢だねと姉と一緒に不思議がっていた。  ある日、夜会で火事が起きた。高貴な伯爵令嬢が瀕死の大火傷を負い、生死の間を彷徨うことになった。ユリウスの姉の評判を聞いていた伯爵は、ありったけの財宝を手に娘と共に訪ねてきて、治癒を頼んだ。ユリウスの姉は、もちろん躊躇うことはなく、彼女を治療した。伯爵は感涙し、有り余る謝礼を置いて帰っていった。  その日の夜、ユリウスの姉は夢を見た。白い長い髪の女性が、姉の両手を握った。両手は、やはり青い光に包まれていた。 『大きなものを引き受けたね。実に20年分だよ』  そうしてようやく、ユリウスの姉は、その年数は治療の対価として払った寿命だと気が付いた。 「以来、姉はいつも泣いていた。外からは、いつも“聖女”の力を求める人々の声が聞こえていた。……それは、いつしか怒号に変わった。金払いのいい貴族ばかり治療して、領民を無視することにしたのだろうと」  同じだった。クラリッサが治療をしないと決めたときの周囲の反応と、そしてエーヴァルトがでっちあげた理由とまったく同じ。 「それからしばらくして、俺がひどい熱を出した。当時、俺と同じ年の頃の子の間で流行っていた病だった。……熱が下がり、俺が意識を取り戻したとき、姉は隣で死んでいた」  そうしてきっと、また別の少女が“聖告”を受け、その少女が(たお)れ、そしてまた別の少女が……。それを繰り返し、やがてクラリッサが“聖告”を受けた。 「……君は“聖女”のクラリッサ。そうなんだろう?」  クラリッサは、静かに息を吐き出した。ゆっくり立ち上がり、ユリウスがしているように壁に背を預ける。もう足の震えは収まっていた。 「……ええ。そうです。私もまた“聖告”を受けました。……5年ほど前のことです。……なんの前触れなく、血筋にも関係なく、ある日突然、女神から自らの肉体寿命と共に力を授けられ、あらゆる傷病を治療できるようになり……その対価として、その傷病に値する寿命を支払い、支払った寿命を女神に告げられるようになりました」
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