追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

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「探したよクラリッサ。大変だっただろう、こんな狭く汚い家で――」 「お引き取りください」  早口の声には、日頃のリサ――クラリッサにはない明確な拒絶の意志があった。しかしエーヴァルトは心配そうに眉尻を下げるだけだ。 「そんな言い方をしないでもいいだろう。私は君を心配してきたんだ」 「心配ですって? 私を王都から追放したのは、他でもないエーヴァルト殿下です!」 「誤解だよクラリッサ。私は君を追放するつもりなんてなかった」  エーヴァルトの靴が小屋の中に踏み込む。村人や騎士団員と違い、汚い道を歩いたことのない綺麗な靴だった。 「あくまであれは父上の判断だったのだ。皇帝たる父に逆らうことのできなかった私の気持ちも汲んでくれ」 「なにを惚けたことを。『偽物の聖女と国民に知らしめてこの帝国のどこにも住めぬようにしてやる』とまで口にしたのは、ほかならぬ殿下です」 「誤解だ、この帝国では皇帝たる父上が絶対の存在、それは私にとっても同じこと。父上の隣で黙って立っているだけでは足りないのだ、あくまで私個人の意見でもあるように君を(なじ)らねば……。君なら分かってくれるだろう、クラリッサ」 「いいえ分かりません」  カッカッと靴音を響かせながらエーヴァルトはクラリッサに歩み寄り、クラリッサはじりじりと壁際を移動する。 「それに、私への罵倒が本心だったかどうかなどどうでもいいのです。殿下は、我が一族が代々受け継いできた薬草庫を燃やされました」  ある晩、煌々と燃えていた温室と書庫。そのときの光景を思い出すだけで声が震えた。 「我が一族の宝であったこともどうでもいいとは申しませんが、何よりも、あれはこの国の人々に必要なものです。それが灰塵と帰したことで、この国の人々がどうなるか考えなかったわけではありませんでしょう!?」  叫びながら、ついに扉の前まで来てしまった。ぐるりと小屋の中を一周してしまったし、扉のすぐ外にはエーヴァルトの護衛達が立っている。  逃げられない。壁に背を張りつけたままぎゅっと拳を握りしめていると、エーヴァルトには隠しきれぬ勝利の笑みが浮かんだ。 「落ち着きたまえクラリッサ、そして城へ帰ろう」 「や……」  小屋の外から伸びてきた二本の腕がクラリッサを羽交い絞めにする。舌を噛み切らぬよう、その口には乱暴に布も押し込まれた。
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