追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

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 ユリウスを見上げると、いつもクラリッサを見るときとは異なる感情が浮かんで見えた。まるで、呪いを受けた者を見て、その受難を悼むかのような目だ。  しかし、クラリッサは微笑み返した。 「ただ、幸いにも、私は“聖女”の能力をいち早く知ることができたのです。……母の幼馴染が聖告を受け、早いうちに亡くなったそうです。私が“聖女”の力を授かったことが分かってすぐ、決して使わないようにと言いつけられました」 「……しかし、皇族に見つかった?」 「……私も、昔話をしましょう」  クラリッサは、“聖告”を受けたが、その夢のことをすっかり忘れ、ただある日ふと、怪我をしてしまった子を撫で、自分に治癒の力が備わったことを知った。クラリッサはそれを“特別な”力と喜び、以後夢の中で告げられる年数の意味を考えようともせず……ある日それを母に見つかった。母は涙を流しながらクラリッサを叱った。そこで初めて、クラリッサは“聖女”の力と呼ばれている治癒能力の代償を知った。 母から代償を知らされた後のクラリッサは、自分の力の強大さに怯えた。なにより、自分はあとどれだけ生きられるのか、その疑問を抱いたとき、今まで告げられた年数をまったく覚えていないことに気が付き、恐ろしくなった。そうして、クラリッサは力を使うのをやめた。  しかし既に遅かった。クラリッサの話を聞きつけた皇帝がクラリッサの捜索を命じていたらしい。クラリッサは無理矢理家から連れ去られ、エーヴァルト皇子の妃候補という名目で宮廷に閉じ込められた。 「……当然、力を使わないことは許されなかっただろうな」 「ええ。……そして、私のもとの名は、クラリッサ・ティア・グラリシアというのですが」  ユリウスは、クラリッサが“聖女”だと知ったときよりも驚いた。グラリシア家といえば、2年前までは皇族お抱えの宮廷薬剤師を務める一族だったからだ。  2年前、グラリシア家は帝国を追放されていた。公には、その秘伝の薬剤の供給を渋って薬草庫に火をつけ、温室を燃やしたという背信行為によるものとされているが……。 「……まさかあの事件は、聖女の力を使わなかった君への、みせしめか」 「……ええ」
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