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ぼんやりと、ユリウスは意識を取り戻した。
酷くうなされ、懐かしい夢を見ていた記憶があった。……死んだ姉の夢だったように思う。しかし、なぜ姉だと思ったのか、その姉が夢の中で何をしたのか、何を話していたのか、思い出せることは何もなかった。
「……俺は」
何をしていた。そう口に出そうとして、喉が酷く傷んだ。咳き込んでしまいながら体を動かそうとしたとき、ガタガタッと視界の外で椅子の揺れる音がした。
「騎士団長!」
「……ローマンか」
姿を見つけるより先に声で気付き、顔を向けると、ローマンはへたりこんだように床に座り、手をついていた。
まだはっきりとしない頭で記憶を探る。最後に見たローマンは、馬の下敷きになっていた。動けなくなったローマンが狙われてはならないと、慌てて馬から飛び降りたが、その後のことを思い出せない。
ただ、見る限り、腕以外に大きな怪我は見当たらない。その顔には傷痕が残っているものの、腫れはだいぶ引いていた。
もしかすると内臓を押し潰されたかもしれないと心配していたが、無事だったようだ。安堵すると、途端に自分の顔に巻かれた包帯が鬱陶しくなり、手をかけ――部屋の隅で眠る少女に気が付いた。
同時に、自分が毒矢をこの目と腕に受け、さらに体に穴があくほどの重傷を負ったことを思い出し、戦慄した。
「クラリッサ!」
駆け寄ろうとして、膝から床に落ちてしまった。寝台の横に置いてあった机が倒れ、水差しが落ち、けたたましい音を立てて割れ、あたりが水浸しになり、破片がその場に砕け散る。
しかし、ユリウスにとってそんなことはどうでもよかった。まさか――その予感に突き動かされるがまま、クラリッサの土気色の顔と、ローマンの居た堪れなさそうな顔を見比べ……立ち上がり、ローマンの胸座を掴み、揺さぶる。
何も口にせずとも、それだけで何を聞かれているのかは理解したのだろう。上官相手にも関わらず、彼は静かに項垂れた。
「……申し訳、ありません。騎士団長の……必要以上に彼女に接触するなという言いつけを……」
「……お前が、連れてきたのか」
「……彼女が、聖女だという話を聞き」
申し訳ありません、という呟きを聞くより先に、ローマンの体を投げ捨てた。あまり力が入らず、ローマンは蹈鞴を踏んで背中を扉にぶつけただけだった。
よろりと、自分らしくない力の入らない足が、クラリッサに向く。その前に崩れるように膝をついた。
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