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そんなある日、いつもの薬を取りにくる時間、蹄の音が違うことに気が付いた。あの黒いたてがみの馬が「相棒」なんだと聞いていたのに、馬が負傷でもしたのだろうか――そう訝しみながら扉を開けると、やってきたのはいつかの騎士の一人だった。
彼は、馬から降りるやいなや「リサさん、すみません」とぺこぺこ頭を下げた。
「自分はローマンと申します。いつぞやは大変ご無礼を失礼しました」
「いえ……お気になさらず……」
今日はユリウスは? 騎士団のほうで忙しいのか? それともその身に何かあったのか? 不安を浮かべると、ローマンが「騎士団長でしたら、別の土地に遠征中でして」と口にした。
「リサさんのもとへ行く約束があるから、帰りが間に合わなかったら代わりに行くようにと申し付けられていました。次に来る日も確認しておくようにと」
「そうでしたか……」
大事があったわけではない。せめてそれだけ聞ければ安心だ。リサは胸を撫で下ろしながら、しかし落胆しながら、用意しておいた薬を渡す。ローマンは「ありがとうございます」と丁寧に受け取った。
「……しかし、リサさん、改めまして、初めてお会いしたときは大変ご迷惑をおかけいたしました」
「……え?」
「聖女がいるという噂を真に受けて、リサさんを無理矢理騎士団に連れて行こうとしたときのことです。その節は大変失礼しました」
「あ……ああ!」
そうだ、そういえば彼は自分を聖女だと決めつけて小屋にあがりこんだのだ。今となっては全く気にしていないことだったので、リサは本心で首を横に振る。
「いいえ、お気になさらず。お陰様でこうして薬を買い取ってもらえるようになり、村のみんなも少しずつ豊かになりましたから」
「そうですか……いえ、申し訳ないのですが、そう言っていただけると助かります。騎士団長に叱られてしまいました――」
ユリウスはあの場だけではなく、去った後も部下を指導してくれていたのか。そう知ったリサは頬を緩めてしまいそうになり「聖女なんていないのだから、と……」続きに言葉を失った。
「……ユリウス様は、過去になにかあったのでしょうか? 例えば……、聖女に騙されたなど……」
ローマンは「いえ、そうは聞いておりませんが……」と首を横に振りながらも、そう言われてみればとでもいうように顎を指で挟んだ。
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