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私一人の力では、捜査が困難なため、協力者を頼る。
その人物とは、これまた馴染みの情報屋・青井破門である。
性別/年齢/本業不明という、謎の人物であった。
私は彼(彼女? )に会うため、歌舞伎町の桜通り沿いの〝ブルースター〟バーを訪れる。
中に入ると、そこのママが出迎えてくれる。
「は~い、いらっしゃい~・・・・・・あら~、不々美ちゃんじゃないの、久しぶり~」
そのママの正体こそ、件の人物、青井破門である。
いつも彼(彼女)を見ると掛け寄ってくるので、私は思わずたじたじになる。
「ああ、どうも・・・・・・破門さんもお元気そうで何よりです///」
破門さんはさらに私に顔を近づけてくる。
「それで~?今日は何にするかしら~~~?」
そこで、私が、とある三つを注文する。
「ラム、ソーダ割り、レーズン」
そう言うと、破門さんの顔が少し強ばった。
そして、短く言う。
「奥へ。」
私達はカウンターの奥にある、地下に続く階段を下る。
その部屋は、全体がパソコンの画面に囲まれた、まるで司令室のような場所だった。
これが・・・・・・情報屋・・・・・・
「それで、改めて話を聞かせてもらえるかしら。」
破門さんは、先ほどまでとはうって変わって、キリとした表情になる。
そう、先ほど言った私の「ラム、ソーダ割り、レーズン」という注文、これこそが、情報屋に依頼する、合図なのである。
互いに状況が整ったところで、私は、事件のあらましを説明した。
・・・・・・
・・・
・
しばらく考え込んでいた破門さんだったが、やがて口を開く。
「なるほどねぇ~まさか実ちゃんが、そんな窮地に立たされてたとはね~」
そして、私の方をまっすぐ見ていう。
「たしかにこの状況、完全な密室殺人で、犯人は実君しかあり得ないわぁ~~~あくまで、科学的(・・・)根拠(・・)に基づいたら、の話だけどね。」
⁉
どういうこと?
「死亡推定時刻、防犯カメラ、裁判、これら全てが映し出すのは、〝科学的な〟証拠の数々だ。そこに、非科学的・神秘的な要素は介在しない。例えば、姉川冥は呪い殺されたのであれば、後発動の魔法をかけられたなら、または犯人が超能力者、透明人間で壁をすり抜け、防犯カメラにも写らなかったのなら、鬼や悪魔の仕業なら・・・・・・
考えだせば、キリがない。しかし、現代人は、その可能性に目を背けている。科学のみを絶対視する。オカルトを馬鹿にする。」
破門さんは大きく息を吸ったあと、言う。
「忘れるな、老田不々美━━お前もまた、科学の外側にいる人間の一人なのだから。」
・・・・・・
翌朝になり、私は、破門さんのバーを後にする。
・・・・・・もちろん、考えなかったわけじゃない。この事件が、非科学的現象により、起こったということを。
だが、考えても無駄だと思った。
実君は現在、拘置所に拘禁されている。
解放するためには、裁判で勝たなければならない。
つまり、〝科学的に〟証明しなければならないのだ。
オカルトではダメなのだ。
それでは実君を助けられない。
・・・・・・
先ほどのバーで、破門さんから一つアドバイスを受けた。
「まずは、オカルトの代表格みたいな存在、〝精霊〟に会ってみては~~? 残念ながら、私は普通の人間。オカルトについてはオカルトそのものに聞いてみなくては。もしかしたら〝彼女〟から、芋づる式で、真犯人までたどり着けるかもしれない。」
そう言われたため、現在私は、その精霊、“オヤ”の元まで向っている。
といっても、正確には、その場所に精霊はいない。
そこで、〝召喚〟を行わなければならないのだ。
・・・・・・いきなり、別次元の話になってきたものだ。
さっきまで、死亡推定時刻やら防犯カメラやら言ってたのに。
精霊はそもそも、召喚主以外には姿が見えないらしい。
その時点で、精霊にも犯行が可能だ。
・・・・・・まあ今回に限っては、それはないと思うけど。
「まああくまで、この世界では、っていう話だけどね~~~」
と言ってたが、意味が分からない。
そして場所も場所だ。
険しい山の奥地でもなく、激しい流れの川でもなく、燃え盛る火の中でもなく、神聖なる教会内でもなく、真夜中の墓場でもなく。
・・・・・・私の実家であった。
いや、なんで?
これはもちろん、私の実家が、全精霊の召喚場所であったわけではない。
〝私にとっての〟、精霊の召喚場所であったのだ。
なお。
今、両親はもういない。故人である。
私が小さい時に事故で亡くなった、とだけ、実君からは聞かされていた。当然その記憶は、私にはない。
なので私の“元”実家も、現在は別の人が住んでいた。
名を、足利義量、酒浸りの大学生とだけ、聞いていた。
私の生誕な地をそんなやつに汚されているとあっては、たまったものではない。
やや憤りを感じながら、私はそこへ急いだ。
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