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勢いよく扉を開ける。
不法侵入もさながらである。
そして私の目に映った光景は。
「⁉」
なんとそこに、現在の家主が倒れていたのだ。
周りには、大量の酒瓶が転がっていたのだ。
・・・・・・嫌な予感がする。
足利さんの身体は、すでに冷たくなっており、死亡していることは明らかであった。
口元だけでなく、身体全体から、強烈なアルコール臭がする。
死因は明らか、急性アルコール中毒だ。
酒の飲みすぎは、嘔吐や血圧低下、呼吸低下が起こり、最悪死に到ることがある。特に、酒を飲み始めた大学生が、急に多量摂取することにより、引き起こすことが多い。
・・・・・・なんでこんな毒物を、成人の人間はほいほい飲むんだ、と、未成年の私は思う。
とにもかくにも。
今さら救急車を呼んだところで、すでに手遅れである。
救急隊員の一人が、神の奇跡・蘇生魔法でも扱えない限り、生き返らせることは不可能である。
・・・・・・すでに、オカルトに毒され始めてきてるな・・・・・・
なら、警察に通報するか。
と、最初思ったが、ふと立ち止まる。
ここに警察が来る、ということは、この場は現場封鎖、立入禁止が確定してしまう。すると、少なくとも今日、下手したら数日数週間は、ここに立ち入れないかもしれない。
ならば、通報前に、やるべきことを先にしとくのがベストだ。
つまり、精霊の召喚である。
たしか、破門さんから聞いた呪文はこうだったか。
私は、両手を前で組み、祈る。
「〝イチゴイチエ〟」
すると、なぜか私の背後が、光輝き、ゲートが発生する。
振り向くと、なんやら精霊のような者が、私の背後に召喚されていた。
『ああ主様、あなた様との出会いは、一生の出会い。私を使役し、お導きください。』
まさか召喚が本当に成功するとは思っていなかったため、私は、我に返り驚いて、思わず尋ねる。
「あなたは誰? 」
『私は精霊のオヤと申します。あなた様に召喚され、以後一生涯ご背後について参りまする。』
私はちょっと困惑したものの、これから事件のことについて尋ねなければならないため、従属化を許可した。
「それで、これからいろいろ聞きたいんだけど、いいかな? 」
『もちろんでございまする。』
私は、事件のあらましについて説明した。
何か、この世の科学を超越するような、そんな超常現象に心当たりはないかと。
しばらく考えこんでいたオヤであったが、やがて口を開く。
『申し訳ございません。私の世界の常識にても、思い当たるものはありません。』
オヤが深々と頭を下げる。
う~ん、外れかあー
振り出しに戻ったな。
このまま、結局何も得られず、控訴審まで行ってしまうのではないだろうか。
そうなってしまえば、実君の身は・・・・・・
━━ああ、ダメだダメだ、実君は私にとって必要な存在なんだ!
なぜだかは分からないけれど、
私は実君を守らなくてはならない。
絶対に。
それこそが、私の生きる意味なのだから。
焦燥感に駆られる私を、オヤは宥めてくれる。
『主様、私はいつもついております。何かあれば、私が全力で護ります。
ですから諦めないで、ご自分の道をお進みください。』
そう言うとオヤの姿は、徐々に霞んでいき、やがて完全に消え去った。
いわく、オヤは別世界の存在であるので、現世ではある特定の場所に一定時間しか滞在できないとのことらしい。
だが、見えないだけでいつも傍にいる、そう口にしていた。
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