プロローグ

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私はこの後、警察に通報し、何時間にも渡る事情聴取を受けた。 どうやら、私が足利さんに酒をすすめ、死なせたのではないかと、疑いの目を向けていたようだ。 私は、唯一の取り柄である弁証能力で、その疑惑を完全に否定した。交番を後にするころには、もうすっかり真夜中になっていた。 ああ、結局今日も、何の収穫もナシか。 二日連続無駄にしたというのは、相当にダメージのでかい。 私は、かなり気落ちしながら、現在の住処への帰路についていた。 そこへ。 地獄の業火が降り注いだ。(・・・・・・・・・・・) あ、これ、ダメなやつだ。 燃えさかる紅蓮の炎の中、私は瞬時にそれを悟った。 すでに肉体は燃焼を始め、火を消すことは叶わない。 神経も焼き切られ、身動きすらままならない。 そんな絶体絶命の中、しかし脳は冷静だ。 未だ思考することができている。 すでに、目も焼け落ち、視覚は失われている。 だが、それでも感じる。 『主様‼』 近くにオヤがいる。特定地でしか出現できないと言っていたのに、無理にでも顕現したのだろうか。 そして・・・・・・もう一人。 コイツが火を放ったのだろうか・・・・・・ 薄れゆく意識の中、脳だけは極めて冷静に働いた。 ━━とはいえ。 いくら冷静だとは言っても、燃えてるんだからそりゃ熱い。 いや、熱い熱い、マジで熱い。 ていうか痛い痛い。 ついに、死を覚悟する。 ああ、実君、守れなかった・・・・・・ ごめんね。 私はここまでみたい・・・・・・ ・・・・・・ いや、そんな感極まったような態度できるか。 死ぬのが怖いわけがない。 普通に怖い、マジで怖い。 そう心の中で叫びながら、私の意識は完全に闇に墜ち━━━━━ そして再び目覚めた。 「さすが老田不々美、不死身の女。まさか、一度全ての肉体を消失させ、火が消えた後に肉体を再構成するとは。さながら、フェニックスだな。 依頼主から話には聞いていたが、まさかここまでとは。」 私は目を開ける。まだ意識がはっきりしない。 「お・・・ま・・・え・・・は・・・」 その言葉の主は、声高々に発声する。 「私は国際連合最先端技術機関〔UNTI〕代表、ツォン・ファーヘイ。ここには、科学的不純物の排除を依頼され、ここにきた。」 科学的・・・不純物? 彼女は続ける。 「そう、貴様。そして、その隣の幻想存在。この二つはこの世界にとって害悪。“科学“を根底から揺るがしかねない。 この世界にとって、科学こそ全て、世の理(ことわり)、世の絶対。 ゆえにこれより、私の全身全霊をもって、これを排除する‼ 」 ここまで言われ、私は今置かれた現状を全て理解した。思い出した。 私は、不死身、そして不老不死であった。 忘れていた。いや、忘れされていた。 誰に? いや、誰にでもない。私自身が記憶を消したのだ。無論、無意識で。 そんな私を、コイツは退治しにきた。 いや、正確には私一人だけなければ、問題なかった・ 不死身は死んだときのみに発動する。 それなら、死ななければいい。それならば、世の理を壊さない。 しかし、私は今日、それを壊してしまった。 精霊の召喚、これを行うことによって。 そしてコイツが動くこととなった。 ・・・・・・誰がコイツに情報を伝えた? 誰がオカルトに目を向けさせた? 誰が精霊の召喚を仕向けた? そして、私は確信を持つ。 コイツだ。 事件の犯人。実君に罪をなすりつけたヤツ。 私はオカルトに目がくらんでいて、気がつかなかった。 オカルトと最先端技術は、正反対であると同時に、共通項がある。 それは、「皆が知らないこと。」 それを用いれば、不可能犯罪は可能となる。 証拠はない。 殺害方法も不明だ。 でもコイツだ。私の勘がそう告げている。 なんとかして捕らえる。そして事件を解決させ、実君を救う‼ 私は決意した。
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