0人が本棚に入れています
本棚に追加
控訴審当日。
私は、重い足取りで、その場に向かった。
本当は、ツォン・ファーヘイを、法廷に引きずり出したかった。
しかし、彼女は私の目を盗み、逃亡した。海外にいかれたとあっちゃあ、どうにもなるまい。
代わりに、破門さんが自首した。
そう、ツォンの依頼主、そして事件の真犯人である。
これについては、ツォンとの決着直後、私はその足で、ブルースターを訪れた。
私の姿を目の当たりした破門さんは、
「そう。」
と口にしただけで、後は黙っていた。
考えてみれば、防犯カメラの映像など、破門さんにかかれば、偽造など容易だ。それに、たとえ無理でも、ツォンがいる。
あいつなら、不可能を可能にするだろ。
冥さんの殺害方法については、今でも私は分かっていない。
法廷でも、新開発した毒がなんやら、死亡時刻がなんやら言っていたが、正直私にはどうでもいい。
実君が無罪、それが私の全てである。
科学の対義語として、オカルトと破門さんは定義した。しかし似たようなもので、「宗教」とも言い表せれるかもしれない。
つまり、“信じる”ということだ。
私は、実君を信じた。なら、くわしい真相など興味ない。
実君こそが、私の生きる意味なのだから。
そしてついに、待ちに待った判決言渡がくる。
「被告人邪木実に対する殺人被告事件について、次のとおり判決を言い渡します。
主文。
被告人は、無罪。」
実君は、終始ニコニコしていた。
まったく、緊張感のないヤツだ。
━━その時、私の脳内に、ある記憶がフラッシュバックする━━
それは、冥さんに助けられた時の記憶。
その時私は、山奥で刺されて死ぬところを、すんでの所で冥さんに救助された。
冥さんは懸命に私を手当てしてくれ、同時に言っていた。
「いいか、不々美。人生は、死ぬと思っていれば案外生きる。逆に生きるつもりでいれば、死ぬこともある。
同時に、失敗を覚悟していれば成功し、成功しか見ていないと失敗することもある。
いつでも状況が、逆転しうるんだ。」
そしてまた、幻聴も聞こえた。
『不々美、油断するな。ここからが、本当の始まりだ。』
最初のコメントを投稿しよう!