プロローグ

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控訴審当日。 私は、重い足取りで、その場に向かった。 本当は、ツォン・ファーヘイを、法廷に引きずり出したかった。 しかし、彼女は私の目を盗み、逃亡した。海外にいかれたとあっちゃあ、どうにもなるまい。 代わりに、破門さんが自首した。 そう、ツォンの依頼主、そして事件の真犯人である。 これについては、ツォンとの決着直後、私はその足で、ブルースターを訪れた。 私の姿を目の当たりした破門さんは、 「そう。」 と口にしただけで、後は黙っていた。 考えてみれば、防犯カメラの映像など、破門さんにかかれば、偽造など容易だ。それに、たとえ無理でも、ツォンがいる。 あいつなら、不可能を可能にするだろ。 冥さんの殺害方法については、今でも私は分かっていない。 法廷でも、新開発した毒がなんやら、死亡時刻がなんやら言っていたが、正直私にはどうでもいい。 実君が無罪、それが私の全てである。 科学の対義語として、オカルトと破門さんは定義した。しかし似たようなもので、「宗教」とも言い表せれるかもしれない。 つまり、“信じる”ということだ。 私は、実君を信じた。なら、くわしい真相など興味ない。 実君こそが、私の生きる意味なのだから。 そしてついに、待ちに待った判決言渡がくる。 「被告人邪木実に対する殺人被告事件について、次のとおり判決を言い渡します。 主文。 被告人は、無罪。」 実君は、終始ニコニコしていた。 まったく、緊張感のないヤツだ。 ━━その時、私の脳内に、ある記憶がフラッシュバックする━━ それは、冥さんに助けられた時の記憶。 その時私は、山奥で刺されて死ぬところを、すんでの所で冥さんに救助された。 冥さんは懸命に私を手当てしてくれ、同時に言っていた。 「いいか、不々美。人生は、死ぬと思っていれば案外生きる。逆に生きるつもりでいれば、死ぬこともある。 同時に、失敗を覚悟していれば成功し、成功しか見ていないと失敗することもある。 いつでも状況が、逆転しうるんだ。」 そしてまた、幻聴も聞こえた。 『不々美、油断するな。ここからが、本当の始まりだ。』
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