ベルンシュタインの魔女は人間を愛したかった

11/21
前へ
/21ページ
次へ
「当時はまだ政権も安定していませんでしたからね、それどころじゃない。有能とも分からない孤児を拾って育てる余力など、魔女にくらいしかないのですよ」  ──この王が、前回ここに来たとき、あの三人はまだ十二歳かそこらだった。この王は、自分が王だとは名乗らなかった。魔女も王とは呼ばなかった。だから少年達は王が王であることを知らなかった。それでも、内務官・軍務官になれば、かつて自分達の住む森に来た男が王であることを、彼等の(かたき)である男がここにやってきたことを、彼等は必然的に知ってしまった。そのせいで、少年達は時々口にした、なぜ王がこんなところに来るのか、と。魔女は「伝説に興味があるなんて、王様も可愛いところがあるのね」と誤魔化していたけれど、聡い彼等はいつだって誤魔化されたふりをしていた。 「ところで、その御三家。二人を東域に派遣しましたが、様子をご存知で?」 「それは王である貴方の把握すべきことです」 「興味がないと?」 「聞かせたいならそう言ってくださらないと」 「これは失敬。出陣して六月(ろくつき)、膠着状態に陥りはや一月(ひとつき)、地理に慣れておらず疲弊もしていた我が国の軍はアシエ軍の侵攻を止めるのが手一杯だったようです。そして、兵の限界を感じたアードルフ・グラナトが一計を案じたようですが、残念ながらこれが失敗し、リヒト・ズィルバーグランツが捕虜になってしまいました」  そして、その情報で、魔女の顔色が豹変する。じっと視線を向ける先の王は楽しそうに笑っているだけだ。 「……何を笑っているのです」 「元から私はこういう顔です」 「人が一人捕虜になっている、死ぬかもしれないというのに何を呑気に!」 「そうです、一人死ぬだけです」  は……、と魔女は愕然とした声を出した。王は打って変わって冷ややかな目を向ける。 「たった一人です。史上最強だろうが、一騎当千だろうが、彼は一人には変わりありません。それが捕虜になったからなんだというのです。付け加えますと、リヒト・ズィルバーグランツを切り捨てるのであれば、東域の奪還は容易なところまできています。たった一人のために万の民を捨てることはできない」 「……それをわざわざ私に伝えてどうしたいのですか」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加