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魔女が初めて王に会ったあの日は、生贄にされた子供に対しても取ってつけたような〝可哀想〟しか感じなかった。あとはせいぜい、それくらいこの国も王も弱っているのだろう、と。だが、あの三人を育てているうちに、その感想が次第に変わっていった。深化したなんていえば、数百年経てもまだ成長したりないものがあったかと自嘲するだけなのだけれど、その感情の変容はそんな生易しいものではなかった。お陰で……、見るだけで嫌悪感が募るほどに、魔女は王様を嫌っていた。
だから、つん、と湖を挟んで顔を背けてみせるが、ふ、と王は不敵な笑みを浮かべるだけだった。
「それはそれは。私のもとへ大層優秀な官僚を寄越してくれたのは、貴女自身の忠誠心の現れだと思っていましたが」
「何の話です」
「惚けなくとも。神童の名を恣にする〝御三家〟は貴女の養い子でしょう」
沈黙が落ちた。本当のところをいえば、どんなに魔女が彼等を可愛がったところで彼等はそれだけでは生涯を遂げることができなかったから、できるだけ早く官僚にさせる必要があったのは事実だ。でもそれは目の前の王が仕えるに値するからではない、あくまで少年三人は一人で生きていくには無力で、魔女は彼等に人生を楽しませるには無力だっただけの話だ。
それを王の前で口にするのは癪だった。お陰でじっと黙ったままだったが、王はそんな内心も見透かしたように嗤いながら歩み寄って来る。
「まあ、いずれにせよ、使える駒をくれるというのはありがたいものです。それが魔女の子だろうがなんだろうがね」
「まるで私が育てたことに文句でも言いたそうですね」
「私は別に。ただ──そうですね。学ぶ場も、金も、時もないはずの孤児が宮廷試験に合格するなど魔女の仕業か。満足に食うこともできない孤児が騎士まで、しかも最年少で軍務卿補佐にまで上り詰めるなど、魔女の仕業か。野垂れ死ぬしか能のない孤児が敵軍を次々と陥れるなど、魔女の仕業か。そう言われていることは事実ですし、貴女もご存知でしょう」
「だったら何ですか。あの子達の今が努力の成果であることは私が一番よく知っています。大体、孤児を切り捨てるしかできないような国なんて、陛下の政治手腕に私は疑問を抱かざるを得ない」
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