ベルンシュタインの魔女は人間を愛したかった

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「……貴女は昔、教えてくれましたね。魔術には供物(くもつ)が必要だと。魔術は魔力という因果律を加えることができる点で人間による加工と異なるだけで、無から有を生み出すものではないと。有から有を生み出すに過ぎず、そしてその対価関係が人間界とは少しことなるものであるだけだと」 「……そうね。それを知らない人間達は、物を捧げることが魔術を呼ぶと勘違いしたのよ」  だから貴方達の幼馴染は死んだ、と魔女は付け加えた。シマーは黙っている。意外と勘のいい彼には、もしかしたら察されたのかもしれないと、魔女は小さな溜息を吐きながら、机の上に手を置いた。 「対価関係は、私が決めるものじゃない。私達が神と信仰する者が決めること。だから捧げた供物が願う魔術に適うかどうかは使うまで分からない。でも……神様は、存外優しくて、人間の命を、それなりに対価性の高いものと考えてくれている。そして人は何の根拠もなくそれを知っている。だから、人はこぞって人間を捧げたがる。人間って不思議ね。価値があると知っているからそれを捧げるのに、まるで無価値かのようにそれを捨て去ることができるんだから」  シマーはまだ無言だった。魔女は少し困ったように眉を寄せたけれど、なんでもないかのように居室内を振りむいた。 「シーくん、折角来てくれたならお茶でも入れようか? リッくんが淹れたのじゃなきゃいや?」 「……私はそんな呑気な話をしに来たのではないんです」  そこでふと、魔女は気が付く。どうして彼は、昨日、王がここへ来たことを知っていたのだろうと。確かに彼の官位は年不相応に高いとはいえ、王の一日を把握できるほどのものではないはずだ。ということは、昨日、彼はここへ来ていたのかもしれない。王がいるのを見て出直したか──はたまた王と自分との会話を聞いて、一度引き返したか。 「……シーくん?」  彼が黙っているのは、いつものように必要以上のことを喋るまいと思っているからではなく、何というべきか迷っているからかもしれない。  実際、シマーは苦々し気に目を背けた。 「……貴女はちっとも魔女らしくない」 「え、ここにきて突然の悪口? え?」 「魔女なら、人間でも食っていればいい。見つけた幼子など、鍋に入れて煮て焼いて食ってしまえばいい。それどころか気紛れに育てるなど、魔女らしからぬ行動です」
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