ベルンシュタインの魔女は人間を愛したかった

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「ええ……言ったじゃん、別に魔女だからって人間食べるわけじゃないんだよって……。しかもシーくん達、そこそこ立派に育ったんだからいいじゃん……文句言わないでよ贅沢だな……」 「……いなくなってしまうんですか」  その声は、妙に弱々しかった。シマーの言葉ではないような気がした。三人の中でも群を抜いて不愛想な子の声ではなかった。甘えん坊の時期なんてなかった子なのに、初めて甘えたような声だった。リヒトが拾って来た小鳥が全快して旅立つときも、そんな寂しそうな声は出さなかったのに。  だから魔女は、ふふ、とまた笑った。 「元気でね」 「……リヒトとアードルフがどれだけ貴女を大事にしてるか」  そこで敢えて自分の感情を口にしないのが、恥ずかしがりやな彼らしかった。 「そのリヒトくんが、捕虜になってるって知ってるんでしょう。軍務卿補佐を死なせたとなれば、指揮をとるアードルフくんが責任を問われることを分かってるんでしょう」 「……いまミヌーレ国に使者を送っているんです。援軍が来れば、ミヌーレ国からの出陣があれば、助かるかもしれません」 「ミヌーレ国は動かないよ」 「それでも私には伝手はあります。昔、ミヌーレ国の衛兵に貸しを作ったことが」 「衛兵だよね。その程度じゃ、国は動かせないよね」 「その衛兵の親友が軍務卿付でもですか」 「ちょっと無理かな。もともと、あそこの軍備はせいぜい警邏が限界な程度だから」 「……アードルフは軍師として天才的です。次の策を練っている最中ですから、それが上手くいけば、」 「ねえ、シマー」  いつの間にか自分より背が高くなってしまった養い子を、魔女は見上げた。俯いた彼は、昔から滅多に見ることはなかった、泣いているような顔をしていた。一生懸命口にした策がどれもこれも否定されてしまって、しかも、彼のことだから、どうせ否定されることは──自分の口にしている策に望みのないことは──分かっていたんだろう。それでも、誰かに否定してもらうまで否定しきれないなんて、彼らしくない。  ふふ、と魔女はまた笑う。彼は「笑い過ぎです」と拗ねたような声を出した。 「大丈夫。君達はこの国で、もっともっと偉くなりなさい」 「……偉くなってどうするんです」 「偉くなって、お金を稼いで、食べたいものを食べて、好きな人と家庭を築くの」 「……そんなことして何の意味があるんです」
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