ベルンシュタインの魔女は人間を愛したかった

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「難しいこと言うな、シーくんは。それが人生を楽しむってことのひとつでしょう」 「……その人生に、貴女がいなくてもですか」  シマーには、分かっていた。魔女が結局、変われずにいること。何百年も生きたところで、どこか自分が不必要な存在だと思って変われないこと。寧ろ、何百年も生きてきたから、目まぐるしく発達していく人間の社会で、魔術も魔女も段々と不必要になっていくことに気付いてしまっていること。それは彼女を無感動にするのに十分で、自分達を拾ったのは本当にただの気紛れだったこと。自分達を拾った理由は、数百年に一度、試したことのないことを試す気になった程度のものだったこと。それを試しているうちに、何も変わらないとまでは言わなくとも、その変化は本当に細やかなもので、彼女は結局、どこかで変われずにいること。 「……アードルフとリヒトが、貴女を取り合うのを、ここで待っていたらいいじゃないですか」 「人間と魔女が夫婦になってどうするの」  だから、どうせ彼女は思ってる。彼女がいなくても三人の青年は生きていけるのだから、もう自分は必要ないのだろうと。 「……なってみないと分からないでしょう。折角ですからなってみてはどうですか。私達を育てたように、今回も試してみては」 「失礼な、試したことはあるよ」 「……え?」 「もう百年以上前の話だけどね」  魔女はなんでもないことのように言うけれど、シマーにとっては寝耳に水だった。二人の幼馴染とどうにかなったらどうだと勧める一方で、心のどこかで、魔女が人間の男と添い遂げようとすることはないのだと思ってしまっていた。そのせいで、その可能性を勝手に消していた。そんな思考は、魔女と彼等の将来を否定するに等しくて、シマーは自分の反応を後悔する。  でも、魔女は気にする様子はなかった。代わりに、想い出を探るように顎に手を当てる。 「その人もね、夫婦になろうって言ってくれたの。でも、その人は私が魔女だって知らなかったから。年を取らない私を気持ち悪くなっちゃったの」 「……今度は話が違います。あの二人は──」 「あの二人のことは、私、こんなときから知ってるんだよ?」  魔女は自分の腰のあたりに手を持ってきて、幼い二人の身長を示す。 「あの二人は、思慕と恋慕を混同してるのよ」 「……リヒトはまだ分かるにしても、アードルフまでもがですか」
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