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最後まで、いつでも言えるような小言だけ。不満気にすれば「シーくんは女の子に極端に無愛想なのを直しなさい」と付け加えられる。別に、自分にだけ小言がないことを不満に思ったわけではないのに。
何を言っても、どうせ彼女は変わってくれないのだ。キィ、と、手を掛けた小屋の扉が開いた。
「ごめんね」
そんな、とってつけたような謝罪をしなくたっていいのに。魔女の顔を一瞥するも、彼女はいつも通り笑うばかりで、出ていくシマーの目だけが翳っていた。
「……さようなら。私達の魔女様」
パタン、と、扉が閉まった。
***
シュタイン歴1318年。一年ぶりに軍が帰還した。
「さすがよね。リヒト様が捕虜になったとの噂、一時はどうなるものかと思いましたけれど、アードルフ様の軍略のお陰で生還されるんでしょう」
「あら、リヒト様が自力でお帰りになったとも聞いたわ。思わぬ嵐に攪乱された軍の混乱に乗じて逃げ出しただとか」
「私が聞いたところによると、それにアードルフ様の軍略もあってのことらしいわよ」
「アードルフ様は天が味方になってくれただなんて御謙遜をされてるらしいわ」
「そんなところも素敵よねえ」
シュタイン王国は、多くの犠牲を出しながらも、東域を奪還した。一時総崩れになりかけていたシュタイン王国軍は、突然の嵐を好機に変え、アシエ国軍に奇襲を仕掛けた。その攻撃は、慣れない気候の変動に混乱していたアシエ国軍に絶大な損失を与えた。同時に、捕虜にされていたはずのリヒトが混乱に乗じて脱出、結果的に内部からアシエ国軍を崩すこととなり、アシエ国軍が総崩れ。シュタイン王国軍は勝利を収め、これ率いた軍師と騎士の名は、更に各国へ知れ渡ることとなった。
「ああ、シマー」
二人が帰還するその日、シマーは不意に呼び止められて振り返る。そして舌打ち混じりに頭を下げた。
「これは陛下。何か御用ですか」
「そんな生意気な態度をとる臣下はシュタイン王国中探しても君とあと二人だけだろうね」
「失礼。先程の非礼はお詫びしますので、解任しないでいていただけると助かります」
「死んだ魔女のために?」
シマーは顔を上げなかった。ふん、と王は鼻で笑う。
「さすが最年少の宰相と目されるだけある。その程度のことでは表情を変えないのだね」
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