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「あら、お見掛けするだけでも十分ですもの……。勿論、あの冷たい瞳を向けていただけたらそれだけで宮廷仕えの甲斐があったというものですけれど」
一人は、文官のシマー・クヴァルツ。最年少で宮廷試験合格を果たした。その評価の高さは今も変わることはなく、いずれシュタイン王国の最年少宰相となるのではないかと囁かれるほどの天才。
「ところで、そろそろリヒト様が遠征からご帰還されるのでは?」
「そうよ! わたくし、戦のことは分かりませんけど、リヒト様がいらっしゃるだけで兵達の士気が違うとか」
「さすが、一騎当千の将と謳われるリヒト様、かのお方が出陣されただけで我が軍の勝利が決まったようなものといわれるほどなのでしょう」
もう一人は、騎士のリヒト・ズィルバーグランツ。騎士としての鍛錬を重ねるうちにその頭角を現し、最年少で軍を率いるほどの地位に上り詰めた。
「でも、そろそろ大きな戦との噂があるでしょう?」
「そうなの?」
「えぇ、あのアードルフ様も呼び戻されるらしいわ」
「アードルフ様って国境を守っていらっしゃらなかった? それを呼び戻すなんて余程の……」
「でもいいのよ、だって宮廷の訓練でアードルフ様にお会いできるようになるんですもの」
「ちょっと、抜け駆けはなしよ」
最後の一人は、同じく騎士のアードルフ・グラナト。しかしリヒトとは異なり、実戦に出るよりは軍略を練るよう任されることが多く、軍師の役割を果たしている。兵法に深く通じ、彼が指揮をとればどんな城も陥落できると謳われる知略の持ち主。その罠に嵌められ地獄を見た敵兵は数知れず、シュタイン王国史上最も美しく恐ろしい軍師と呼ばれる。
そんな三人は、その見目麗しさもあり、他の官僚の妬み嫉みを受けることもあったが、少なくとも令嬢からは口々に褒めそやされた。数百年に一度の逸材とされる神童の三人は〝御三家〟と呼ばれている──。
「国境の任解かれてよかった。やっぱり自国の空気が一番だ」
「ミヌーレ国って同盟国だろ。アシエ国とも隣接するけど、そう空気は悪くないんじゃねーの?」
「雰囲気の話じゃなくてただの空気の話だよ。住み慣れた国の空気がなんだかんだ一番いい」
「そんな違うもんかな」
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