ベルンシュタインの魔女は人間を愛したかった

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「ひと月ほど前だな。城下で売ることができる薬草でもあればと様子を見に」 「魔女の薬草って言ったら民は逃げるだろ」 「そこは上手くやればいい。そのための官位だ。お前は国境を任せられて以来か?」 「そうだね。だから丸一年以上来てなかった」  ここは変わらないね、とアードルフは窓の外にある湖を眺めながら呟いた。かつて、共に貧しい日々を生きていた友達がいなくなった場所。そして、貧しい彼等が育った場所。シュタイン王国で〝御三家〟などという大層な呼称をつけられた三人の官僚が、まさか伝説のベルンシュタインの魔女に育てられたなど、誰も思うまい。魔女に育てられたと知られれば、ただでさえ孤児風情(ふぜい)がと侮蔑(ぶべつ)を込めて罵る(やから)達が余計につけあがるというものだ。 「だからさー、おかしくないじゃん? いい香りじゃん? なんでこっち使ってくれないのかなー」 「混ぜていいものと悪いものってのがあるんだよ」 「無害だよ?」 「味の話な!」  そうして、最後まで細やかな喧嘩をしながら、リヒトと魔女はお茶の入ったカップを居室の机に置く。それがまともな色をしていると確認したアードルフとシマーは、女かと勘違いするほど優れたリヒトの家庭力に感謝した。魔女は自分の家庭力の低さは分かってはいるものの認めたくないのか、リヒトの隣で茶を飲みながら「私がいれてもこのくらいにはなるはず」とぼやいている。 「茶葉なんて高級な物、どこで手に入れたんですか、ロルベーア様」 「え、そのへんの木から毟り取って……」 「茶葉じゃないねそれ。味の染み出る葉だね」 「似たようなものじゃない?」 「コイツには何言っても無駄だよ」 「ところでロルベーア様、あの話考えてくれました?」 「あの話?」  唐突なアードルフの言葉に、魔女はきょとんとする。リヒトもシマーも何の話か分からずにアードルフを見るが、アードルフは一人上機嫌ににこやかにさらりと告げた。 「俺が戻ってきたら婚姻しましょうって話しましたよね?」
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