ベルンシュタインの魔女は人間を愛したかった

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(さじ)投げないで! ていうかリヒトくん剣に手をかけるのやめて! 危ないからアードルフくんもやめようね! シュタイン王国最恐の軍師と最強の騎士が喧嘩なんてしちゃだめだからね!」  長年御三家の母親のつもりでいた魔女だったが、そう思っていたのは魔女一人。久しぶりに三人で訪れたと思えばこんなことになるとは、と、シマーは一人額を押さえた。 ***  シュタイン歴1317年。二十年前に王位継承争いに敗れ行方知れずとなっていた第五王子がシュタイン王国東域にて挙兵。これと通じていたアシエ国軍がシュタイン王国東域の城を陥落。近隣国の中でも屈指の軍事力を誇るアシエ国軍の侵攻により、シュタイン王国東域は戦乱の(ちまた)と化し、シュタイン王国は総力をあげてアシエ国を迎え撃つと決定。史上最強と謳われる軍師と騎士が最前線に駆り出された。 「酷い世の中」  子供二人を戦線に連れていかれたような気持ちになった魔女は、狭い小屋の中で一人呟いた。窓の外を眺めれば、枯れた木々がゆらゆらと揺れている。これから冬将軍も訪れようという季節、戦いは益々厳しくなるだろう。  そのとき、ふと、湖のほとりに誰かが立っているのが見えた。リヒトとアードルフはいるはずがない、ということはシマーだろうか、そう当たりをつけた魔女は慌てて外へ出て──その顔に、目に見えて落胆する。その表情を見せられた相手は、くすっと怪しく笑った。 「私相手にそんな不躾(ぶしつけ)な表情をするのは貴女くらいだ、ベルンシュタインの魔女」 「これはこれは失礼しました、王様。何百年生きようと正直な心は変わりませんもので」  そこにいたのは、現シュタイン王国国王であるクローヴィス・ディアマント。魔女が会うのは三度度目だった。一度目は、〝御三家〟の幼馴染の一人が殺された日。そして二度目は──。 「何か御用でしょうか」  少し前のことを思い出しながら、魔女は珍しく刺々しく話しかけた。臣下がそんな態度をとるわけもなく、新鮮な応対に王は肩を竦めて返した。 「ベルンシュタインの魔女くらいですよ、私を陛下と呼べぬほどの無礼者は」 「私はこの国に住まえど、貴方様に仕える気などございませんので」
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