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何が起きたのか、理解するのに少し時間がかかった。
暫くして、四方の冷たい視線に気付く。
それにほんの一瞬気を取られている隙に、彼女は人混みの中へ吸い込まれるように姿を消してしまい、見失う。
夢でも見ていたのだろうか……そう思って気を取り直し、少なからず人目を気にして逃げるように人気の少ない路地裏へと向かった。
その先で改めて冷静に思い返し、あんな至近距離から見た彼女の顔を見間違える筈がないと、自身に言い聞かせる。
ましてや抱き締めた時の感触も、心地よい匂いも、雰囲気も……間違えるなんてあり得ない。
強いて違いを挙げるならもっと華奢だった気もするが、三年の月日を考慮すればそれも誤差の範囲内だ。
ならば何故、彼女は俺を拒絶して逃げてしまったのか……やはり、最後の願いを拒否してしまった事を未だに根に持っているのだろうか。
俺は頭を抱えて項垂れる。
そんなにも俺は彼女を傷つけてしまっていたのかと、絶望する。
「なんで……」
誰もいない空間で崩れ落ちる俺に、
「あの……大丈夫、ですか?」
優しく声を掛けてきてくれたのは、誰よりも何よりも慣れ親しんだ声だった。
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