フロントマンはどこに?

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 旗校の近隣には、二軒の店がある。一軒は校庭のすぐ横にある、菓子パンとアイスがバンバン売れる斉藤文具店。もう一軒は、甘辛いソースの香りを漂わせる自転車屋、おばちゃんちだ。看板の鈴木輪業という文字はかすれて消えかかり、埃をかぶった数台のママチャリは店の奥に鎮座していた。もはやパンク修理よりも焼きそばが稼ぎの柱であることは、誰の目にも明らかだ。二年前、旗校生の取りこみを狙った鈴木輪業のおばちゃんは、焼きそば一人前、税込み三百円という価格で勝負に出た。その術中にがっつりはまったのが、軽音部の三人だった。  三人は、ホームセンターのアウトドアコーナーに陳列されていそうな、プラスチックの丸テーブルを囲んでいた。 「おばちゃ~ん、まいったよ。あと三か月しかねぇってのに、ボーカルが見つからねぇじゃん」  エレンが、もごもごと口を動かしながら言った。 「がっはっはっは! そりゃ困ったな」  ウネリの大きいパーマをあてた恰幅のいいおばちゃんは、本人にしかわからないツボで、ゲラゲラと笑う。 「ねぇおばちゃん、このヤバさ、わかってる?」 「あ? そりゃわかるべよ。うちのせがれも旗校でバンドやってたからよ」
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