1.出会い

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1.出会い

「夜空を駆けるほうき星に手が届いた」  突然、前から声がした。  前の席に誰かが来ていたことに驚いたが、それよりも私が書いている小説を音読されたことが恥ずかしい。 「え、えっと」  前にいたのは私とは縁のない陽キャの朝比奈さんだった。 「突然ごめんね。いつも何か書いてるから、何してるのかな〜って。それ、小説?どこかに発表とかしてるの?」  ゆっくりと頷く。言葉を発するまでの頭が追いつかない。でも、すぐに構えた。これは笑われる流れだ。暗いだの、変だのって。 「へ〜、すごいじゃん!どこに発表してるの?」  私は小説投稿サイトを答えた。 「へ〜」  そういうと朝比奈さんはスマホを出して操作しだした。すぐに「これ?」と画面を見せてくる。水色とピンクのネイルが見えた。 「うん」 「そうなんだ。ここ、いろいろ賞のあるんだね。なんて名前で活動してるの?」 「久野ゆめ」  そこでしまったと思った。これで私が書いたものが読まれてしまう。隠れて書いていたのに。でも、断ることもできなかった気もする。あれこれ言われて、結局答えさせられていただろうし。  そう後悔していると、スマホに通知が来た。 (朝日奈さんがあなたをフォローしました)  えっ?と思って顔を上げると、朝比奈さんがさっきと同じようにスマホをこっちに向けて嬉しそうに笑っていた。 その笑顔は見惚れるほどに明るくて、温かなものだった。
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