神のことほぎ

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 自分たちはどうなるのか知らない。  自分たちは、誰なのか、知らないけれど。  ただひたすら、伝えた。  おめでとう、おめでとう、と。  ずっとそうだったのに、ずっと気にならなかったのに、最近のエルはちょっと違った。  なんでわたしが伝えるのかな。   なんでわたしは伝えてばっかりなのかな。  わたしは知らないのに。  人間たちがどう生きていくのか、ちっとも分からないのに。  それなのに、神さまのことほぎを持っていくばかり。  新しい命ですよ、と告げるばかり。  わたしたちは、何なのだろう。  神さまは、なんでわたしたちに言いに行かせるんだろう。  わたしたちは、どうなるんだろう。  わたしは、誰なんだろう。  これまでなかった「なぜ?」が、エルの中でむくむくと大きくなって、ふくらんでふくらんでふくらんで、はち切れそうになってきくる。  そうしてじわじわ生まれてきた内側に、今日は靄みたいな不安が広がっている。  行ったら後戻りできないと、広がる靄がエルに知らせる。  それなのにどうしてだろう。同時にとっても飛んで行きたかった。  でもやっぱりそれと同じか、それより強いくらい、不安が膨らむ。  胸の中で普段は感じない、きりきり、がある。  風は柔らかいのに、体の内側で、どうどうっと音がするみたいに。  飛んでいきたい。  怖い。  飛んでいきたい。  怖い。  ずっと座って月を見て、静かな気持ちでいられたらと思って、さやさやと鳴る葉擦れの音を聞きながら、誰にも見つからないように座っていたのに。
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