神のことほぎ

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 ファラとエルは、星くずの下を飛んでいった。  森を抜けて、丘の上を越えた。  河を過ぎて、畑を真下に羽を動かす。  向こうの薄闇がぼんやり光りだす。  小さな町が見えてきた。  町の真ん中に、高い屋根の塔が立つ、ひっそり静まった夜の町。  ネオンは消えて、車もいない、もうすぐ誰もが眠る時間。  家々の窓から漏れる暖かい灯がまばらに散らばり、まるで頭の上に広がる満天の夜空のよう。  町に近づきながら、段々と空から降りていく。風に逆らってぐんぐん降りて、家の屋根の色まで分かる高さで飛んでいく。  町の中央近く、塔の少し手前に、青い丸屋根の家があった。屋根についた天窓の、木枠にはめられたガラスの向こう、黄色いランプが点いている。    ああ、あれだ。  ふっとエルは思った。たったいま、神さまの声は聞こえなかったけれど。  ——ああ、あれだ。  突然エルの体に、鋭い感覚が走った。  稲妻のような夏の日差しのような、それは一瞬で駆け抜けた。  頭の上に輝いていた金の輪が、すぅっと消えるのが視界の端に映る。  すると途端に体が重くなり、羽から下へと落ちていく。  思ったよりも速くはない。むしろ風が抱いてくれているみたいにゆっくりと、空気に吸われるように落ちていく。  エルの背中の羽が銀色に光って、落ちていくエルを包み込む。目に映る世界は白く輝いて、ほかに何も見えなくなった。  銀の羽は弾けて砕け、光の粒があたりに散った。
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