神のことほぎ

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「エル?」  先を飛んでいたファラは、急に背中がぞくりとして、急いで後ろを振り返った。  目を見開いて、それからふるふる首を振り、もう一度しっかり目を開ける。  エルが飛んでいたはずのところでは、月明かりが宙空を照らすばかり。  途端に、ファラの全身が震えた。  エルがいなくなっちゃった。  どうしよう、どうしよう、どうしよう!  一緒に神さまのお言葉を伝えにいくはずなのに。  エル、エル、エル!  急いで左を見ても、右を見ても、また左を見ても、どこまでもどこまでも夜が広がるばかり。  目に涙がどんどん浮かび、手足は震え、風の音すら怖い。耳を塞ぎ、闇に飲みこまれる気がして、ぎゅっと固く目を閉じた。  すると、途端に頭の中が静まって、透明な声が響きわたる。  —–– ファラ、行きなさい。  神さまの声は、光を灯すように、ファラに優しく語りかける。  その瞬間、なぜだかファラは、青い丸屋根の家に気がついた。  あそこに、エルがいる。  青い屋根の真ん中で光る、黄色いランプの温かな光。木枠に嵌められたガラスの向こうに、若い女の人が座っている。とても裕福ではなさそうだけれど、暖かそうな小さな家。そしてそこで、ほがらかに笑む女の人。  —–– ファラ、さあ。エルに祝福の言葉を。  ファラの体は呼び寄せられるように、丸屋根を目指して飛んで行った。    あそこだ。  あそこに、エルがいる。    天窓のそばに降り立ち、中を覗き込む。椅子に座る女の人と、彼女にほほえみかけて話す男の人。言葉は聞こえないけれど、心の通いがわかる二人。  空を仰ぎ、目をつむり、心の声を響かせる。  —–– おめでとう。  あなたにたったいま、新しい命が宿りました。  わたしの大事な、大事な友達です。  どうか、幸せが降りますように。  不安な嵐もあるでしょう。  泣きたい夜もあるでしょう。  けれどどうか、お願いです。  あなたたちの、たくさんの愛を。  わたしのたいせつな、友達です。  わたしの友達が、幸せになりますように。  あなたたち家族に、たくさんの、たくさんの幸せが、降りますように。  —–– 全ての生まれてくる命と、そのご家族に幸せがありますように。
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