0人が本棚に入れています
本棚に追加
イチゴが落ちていく。
それは、イチゴ農家の陽一が、収穫作業をしているひと時だった。
そのイチゴは、陽一が特に丹精こめて世話をした株だった。
病気にも、虫にも、負けず立派に育ってくれたのだ。
そんな大切な一粒が、落ちていってしまう。
陽一は、それでもと、咄嗟に手を伸ばす。
その手はぎりぎりでイチゴに届きそう。
よかった――。
陽一が安堵したのもつかの間、陽一の手とイチゴの間にすごい勢いで何かが入ってきた。
そして、あっけなくイチゴをさらっていったのだ。
それは、妻、裕子の手だった。
裕子は、さらったイチゴをそのまま口に放り込んでしまう。
「うん、上出来だね」
陽一の大切なイチゴは、逝ってしまった――。
しかし、裕子の顔は満面の笑みを浮かべている。
大切なイチゴを失ったが、大切な妻の笑顔を見ることが出来た。
陽一はうっすら涙を浮かべながらも、妻の姿に微笑むのだった。
最初のコメントを投稿しよう!