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「今ね、家を育ててるの」
冷蔵庫を開けながら、今日の夕飯はカレーにするね、というくらい軽い調子でそんなことをいうものだから、思わず聞き逃しそうになった。
ワンテンポ遅れて、俺は聞き返した。
「家?」
「うん」
花ではなく家。しかも建てるではなく育てる。
何がなんだかよく分からないので、とりあえず聞いてみた。
「家って、人が住む家?」
「やだー、あったりまえじゃない」
一応断っておくと、彼女は家がその辺から生えてくるなんて思うほど幼稚でファンタジーな思考を持ち合わせてはいない。むしろかなり現実的で、この家を借りるときだって、家賃とか日当たりとか間取りとか、色々考慮してようやく借りるところまできたのだ。
「ごめん、よく分からない」
「これ!」
彼女が見せてきたのはスマホの画面。
地面に種を蒔いて、そこから木がどんどん家になっていく様子が映し出されていた。
「いいよねえ、種植えて水やるだけで理想の家ができるなんて。はあ、現実もこうだったらよかったのに……」
「……」
彼女は現実的で、幼稚でファンタジーな思考は持ち合わせてはいない。
が、現実と理想のギャップにいつも苛まれている。
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