蒲公英花冠

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「おはよー」  まだ眠たくって毛布にくるまったけど、容赦なくベシベシと叩かれる。  しょうがなく目を覚ました僕を待っていたのは満面の笑み。天使な娘だった。  僕が休みだということを喜んでニコニコとしている。 「おはよう。ママは?」  一度天使を抱きしめた。放したくはないけど、ちょっと苦しそうなので顔を見て聞く。  ずっと笑顔を保っている我が娘の天使は「あっち。パパ起こしてって」リビングを指差してる。  まだ存分に眠たくて欠伸が出るが、娘と一緒に妻の居るほうに向かう。 「やっと起きた。いつまで眠り続けるのかと思ったい!」  リビング横のキッチンから顔を出して妻は取り敢えずの文句を言う。 「おはようを言いなさい。文句はそれから聞くから」  軽く怒った雰囲気を残していうのだけどこんなのは通用しないのは解っている。  妻にこんなことを言おうと一蹴されるのがわかっている。「おはよう。おねぼうさん」そんな言葉があって勝ち半分の負け半分になってしまった。  三人揃ってちょっと時間外れの朝ごはんを済ませる。 「さて、パパは今日お休みだけど、どっかお出かけする?」  娘へ聞いてみるがノーとは言わないだろう。  僕は我が子を抱っこしてそのエンジェルスマイルを眺めている。背後からは妻が洗い物をしている音。幸せだ。 「コーエン!」  問いかけに対して場所だけを娘は告げた。それは最近のお気に入りの場所。しかし、郊外の市営公園だなんてお財布にも優しい。 「そう言うと思って、用意は万端です!」  洗い物を終えた妻が僕たち二人のもとに持ってきたのはお弁当箱。そこには華やかな料理が詰まっている。 「ピクニックだー!」  膝の上ではしゃぐ娘。ちょっと足が痛い。  妻も笑って「準備しよっか!」とお弁当を持って娘を連れて僕から離れる。  良くできた人。妻にその言葉が相応しい。金銭面や家事でかなりの負担をかけているのに、彼女からは笑顔が絶えない。どこかでお礼を言わなくては。 「公園に向かってゴー!」  楽しそうなのは娘だけではない。妻も娘を喜ばせるためなのか、自分が普通に楽しんでいるのかは不明だけど、存分に楽しそう。  少し古い軽自動車で公園に向かう。  芝生で娘は駆け出す。振り返る姿はやはり天使だ。 「転ばないようにな」  荷物持ちを買って出て妻と並んで楽しそうな娘を眺める休日の長閑な時間。  娘を眺めているだけでも幸せになる。多分隣の彼女もそう思ってくれているだろう。 「幸せな瞬間」  思ったときにそんな言葉がポツリと聞こえる。  横を向くと妻が笑顔でこちらを眺めていた。僕も笑って帰す。 「あの子を見てるだけで、そう思えるね」  夫婦の会話は少ない。今も娘が呼んでいるので僕は走って向かう。  その時に視界の端に移った妻がちょっと不服そうな顔をしていたのは気にもならなかった。  だって天使がいるから。あの子には誰も勝てない。 「あのね。ウサギさんと遊びたいの!」  この笑顔だ。本当に強力で僕はこの子のためならどんな願いでも叶えたい。  この公園にはウサギとモルモットが飼育されていて、来園者に貸し出される。娘はそれを要望していた。  近くの芝生の上にビニールシートを広げて「あたしは荷物番しとくね」と妻が言うので、僕は愛しの娘の手を取って飼育小屋に向かう。 「この子!」  娘がウサギを選んで僕たちは妻の元に戻る。その時に妻は繁々と僕たちを見ては楽しそうにしていた。
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