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工場には、小岩のように巨大な鉄の歯車がみっしりと詰まった、大きく高い塔があった。
ここが工場の心臓部であり、夜はしっかりと鍵が閉まっている。
しかし、工場の主は町の人を見くびり過ぎた。
痩せた子供なら通れる壁のほころびは、町ではすでに、誰にでも知られるところとなっていた。
夜中、エラエンはそこから塔の中に忍び込んだ。
天まで続くような長い階段を息を切らせて上がっていると、汗の代わりに羽がどんどん生えては、舞い散っていった。
「もう、最近生まれる町の子供は、ほとんどみんなが羽を生やしてしまう……」
白い羽毛が階段に落ちるたびに、エラエンの生命力は失われていった。
エラエンは、楽に死ねる場所を探してここにたどり着いた。
首を吊るのも、川で溺れるのも苦しそうだ。自殺に失敗するかもしれない。
しかしエラエンの家と同じくらいもある巨大な歯車に飛び込み、それで引き潰されれば、ほんの一瞬で楽になれるはずだった。
とうとう頂上まで着くと、エラエンは、塔の中のひときわ大きな歯車に飛び込んだ。
たちまち、白い羽と赤い血しぶきが舞ってエラエンは死んだ。
羽のいくつかは、風に乗り、塔の外まで散っていった。
翌朝、工場の人間は、白い鳥の羽がちらほらと舞っているのを見つけた。
それが天使症の人間の一部だとは知らずに、渡り鳥でもきたのだろうと、ただ風に巻かれていくのに任せていた。
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