天使症

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 天使症の人々は、もちろん、天使ではなかった。  光沢を持つ羽は美しくても、歯車に砕かれた彼らの体は中のものがすべてまろび出し、腐り、よどみ、少しずつ少しずつ歯車に巻きついていった。  そしてとうとう、一番小さい歯車が、肉と筋に巻きつかれて動きを止めた。  歯車はどんなに小さいものでも、一つ止まれば、機構を同じくするすべての歯車が止まる。  すぐに、事態は工場主の知るところとなった。  駆けつけた工場主は昼夜問わずに雪のように舞うという羽の出どころを調べ、すぐに塔に目星をつけた。 「ようし、塔を上って調べるぞ。続け」  そう言って腕まくりをした工場主が、手下や工員を連れて塔の扉を開けた。  中から漂ってきたぬるい風は、異様なにおいがした。  勢いよく階段を駆け上がっていくと、白い羽が段に敷き詰められたようになっており、つるつると滑って、まともに歩けない。 「ええい、羽を片づけろ」  しかし、階段に折り重なった羽は、容易にはとれなかった。  よく見ると、頂上へたどり着けずに力尽きた子供たちの血と肉が、溶けた後に固まって羽と階段にへばりつき、溶接したようになっている。  工場主たちは足元に気をつけながら、そろそろと塔を上っていったが、上れば上るほど、あたりの光景もにおいもひどいものになっていった。  羽も血肉も上から下に垂れてくるものが多く、羽は軽いのではらはらと階下へ舞っていきもしたが、血肉はそうはいかず、上に行くほど赤黒い屍が階段を埋めていく。  とうとう、地獄の底の泥のような色をした死体の塊が、純白の羽にまみれながら通路を塞いでしまい、それ以上は進めなくなった。 「工場主、もうやめましょう」  工場主を止めたのは、見覚えのない若い—―というより幼い――工員だった。もっとも、工場主が顔を知っている工員などそうはいなかったが。 「なにを言う。この塔は高すぎて、外からは手がかけられない。中から直すしかないんだぞ。進め!」  工員は、そう叫んだ工場主の肩をつかむと、ぐいっと後ろへ引いた。  工場主は叫び声を上げる間もなく階段を転げ落ち、首の骨を折って死んだ。 ■
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