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「……」
相手の呼びかけに対して、口をつぐむ園川翼音。
背中の翼も急いで閉じると、今さら手遅れなのは理解しつつも、両手で顔を隠しながら走り出す。
立ちすくむ具良の横を駆け抜けて、開いたままの扉へ飛び込み、階段を駆け降りようとするが……。
「待ってくれ、園川さん!」
背中に投げかけられた声。
翼音は一瞬、反射的に足を止めてしまう。
気配でそれがわかったのだろうか。具良は言葉を続けていた。
「今は気が動転してるみたいだから……。今じゃなくて放課後! 今日の放課後、またこの屋上に来てくれないかな? 大事な話があるんだ!」
翼音にしてみれば、具良は、知られてはならぬ秘密を知られてしまった相手だ。
言い広めたりされたら厄介だし、ここは相手の言葉に従うしかないだろう。
そもそも正体を見られたのは、完全に自分のミスなのだ。誰もいないと思って、誰も来ないと思って、リラックスして翼を広げていたのも軽率ならば、屋上に誰か上がってきたと気づかなかったのも迂闊……。
自分に対する反省の意味も込めて、翼音は振り返らないまま、小さな声で返事する。
「……わかった。今日の放課後ね」
そして再び、走り出すのだった。
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