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時刻は深夜、12時。黒いスーツの上下、黒いシャツ、黒いネクタイに、黒い靴の男が口を開いた。
「こんばんは、榊原 昊」
「はあ・・・・・・」と、僕は言った。歓迎する気にまったくなれない。
それもそのはず。男はとつぜん僕の部屋に出現し、僕のベッドに当たり前のように腰掛けて、優雅に足を組んで座っているのだ。突然かつ失礼きわまりない訪問者に返事をしただけでも、愛想がいいと言ってほしい。
明日は数学Ⅲのテストだというのに、僕は肝心の公式を使う問題を解く糸口さえつかめずにいたんだ。
だからといって、学習机に付属していた子供っぽい回転椅子をくるりと回して、招かれざる客を振り返ったのは……、いたしかたなかった訳であって、けして敵前逃亡するのにちょうどいい口実だったというわけじゃない。
向かい合う形になった男を、僕はジロジロと観察した。年齢は二十代後半くらい? 僕よりも少し年上かな。黒髪に切れ長の黒い瞳、背中には黒い羽……。黒い羽?
僕はハッと気が付いた。
「そうか、夢か!」
「夢なわけないだろ。眠っていないのに。昊、おまえ、少しは驚いたらどうなんだ? 目の前に悪魔がいるんだぞ」
男は呆れたように言った。
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