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ネットで隠れ家的な旅館を見つけて予約したのだが、駅からそこへ向かう間に道に迷った。
スマホで調べようにも圏外でどうにもならない。
困り果てていた時、たまたま人が通りかかった。
すぐさまその人に声をかけ、宿の場所を訪ねたのだが、この辺りには同じ名前の旅館が二つあるという。なので、万が一を考えてプリントアウトしていた旅館のパンフレット的なもので住所を確認し、その地名を告げた。
「ああ、そっちかい。だったらこの道を真っ直ぐ行くと…」
道案内をしっかりと聞き、その人にお礼を言って旅館へと向かう。
やがて、俺は旅館に辿り着くことができたのだが、足を踏み入れた瞬間、そこの様子に愕然とした。
外観はネットで見た通りなのに、施設紹介されていたものと内観がまるで違う。
確かにここの地名を伝えたのに、聞いた人が勘違いして、もう一つあるという同じ名前の旅館の方を教えてくれたんだ。
行き方も判らないのに、動転して宿の外へ出た。その瞬間、周囲がさっきまで見ていた光景とまるで違っていることに気づいた。
風景だけじゃない。空の色や空気の様子まで違う。そして何よりの違いは、そこらを通りかかる人が…人? 確かに歩いているけれど、あれは人?
『人間』なのか?
ここはどこだ? 俺はいったいどこに辿り着いてしまったんだ!?
* * *
さっきの人、無事に宿に着いたかな。というか、あっちで本当によかったのか?
同じ漢字だが、この世の読み方と異界の読み方。それぞれの同じ場所に建っている同じ名前の宿。
聞いた地名が異界の読み方だったから、迷わずそちらへの行き方を教えたが、あの人、どう見ても普通の人間だったよな。
もし間違えて教えていたとしたら…もう戻れないあの人に、心の中で謝っておこう。
地名…完
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